「2人とも長すぎでしょ。もう少しで寝てしまいそうだったよ」
「まぁいいだろ? 女の裸の付き合いは時間がかかるんだよ。それにしても、優子の裸……」
「師匠」
オレがニヤニヤしながら言いかけたそれを、優子は凄まじい勢いで遮った。優子の肌はやっぱり赤みを帯びていて、それが風呂上がりだからか恥じらいだからかは怪しいところだが、オレは断然後者だと考えている。というか、風呂上がりの優子の部屋着がエロすぎる。ネグリジェっていうやつだろうか。ふわっとしたワンピースのような生地にレースの柄が入っていて胸元が大胆にざっくりと開いている。ニケは優子を一目見ただけで動揺していて、必死に胸元を見ないように意識しているようで笑えた。優子はそれには気づいていないようだ。
「悪い悪い! 女同士の秘密だな」
ニケはこの時点で優子と同じぐらい顔が赤くなっていた。改めてこの2人はよく似ていると思えた。
「ゆ、優子がリラックス出来ていたなら良かったよ。じ、じゃあ僕も行ってくるから」
「おう。美女2人の良いダシが出てるぞ」
「師匠」
オレの発想はもはや変態オヤジのそれと変わらない。オレの言葉を無視したニケはそそくさと逃げるように風呂場へ向かっていった。オレと優子はその間に髪を乾かしたり、顔や体のケアを始めた。優子から漂ってくる甘い香りがオレの落ち着いた脈を再び乱す。すると、10分もしないうちにニケが風呂場から戻ってきた。
「早かったな。温まれたのか?」
「うん、おかげさまで」
「美女2人のダシは出てましたか?」
思いもよらぬ唐突な質問が優子の口から飛び出て、ニケの体は一瞬で固まった。まるで優子に石にされたみたいに動かなくなった。ニケをからかう優子はとても良い笑顔をしていた。
「ハハ! 優子もそういうノリ出来るんだな」
「今は言うタイミングかと思って」
「か、勘弁してよ……」
風呂から上がっても色んな意味で疲れた顔をするニケと、自然な表情でリラックスする優子。髪が結われていることで普段は見えないうなじが見える。こんなエロい優子を見たニケはどんな反応をするのか期待していたが、意外にも冷静であるように見えた。風呂場で精神統一でもしてきたか。
「さぁ今から酒でも飲みながら暴露大会でもするか!」
ニケが風呂から上がってから30分ほどが経ち、ニケも優子もいつも通りの顔の色に戻ってきたところでオレはそう叫びながら椅子から立ち上がった。
「暴露大会って何だよ。てか、僕は酒飲めないし」
「私はご一緒しますよ。ニケさんはお好きな飲み物でどうでしょうか」
「は、話を聞くだけだからね」
渋々とそう言うニケだが、案外満更でもないと思っている表情のようにオレには見えた。話がまとまり、オレは飲み物を確認しようと冷蔵庫を開けた。
「優子って、いつもカクテル飲んでたっけか?」
「はい。モスコミュールを頂いてます」
「じゃあそれにするか。ニケは?」
「ジンジャーエール」
「ハハハ! やっぱ似た者同士だな!」
「似てない」
「似てません」
本当にこの2人はよく似ている。最近は特に似てきたし、今日は特にそう思った。師匠としては微笑ましい限りだ。いっそのこと、1日の終わりは毎日こんな時間を送りたいとさえ思った。
「はいよ、優子。師匠特製だ。ありがたーく飲んでくれ。ニケもジンジャエールな。たんと飲めよ」
「ありがとうございます」
「言い方ムカつくけどありがとう」
オレはビールを片手に、3人でグラスをカチンと鳴らし合った。
「乾杯」
くっとカクテルを少しだけ口に入れる優子。あーっと喉を越す炭酸に苦戦するニケ。その初々しい仕草に心がとても暖かくなった。
「美味しい。久しぶりです、師匠の味」
「そうだろ。もっと称えろ」
「ダメだよ。優子。調子に乗らせちゃ」
「何だよニケー。今日ぐらいいいだろう?」
オレたちは時間を忘れて楽しんだ。時間が経つごとに普段は笑わない、ニケの笑顔も増えていった。優子も柔らかい表情で笑っている。二人とも体の力が抜けてゆったり出来ているようだ。
酒を飲む優子の手は一定の間隔でグラスに伸びていき、再び顔に赤みがかかり体をのっそりと動かす優子が「そういえば」と、徐に声をあげた。
「さっき師匠の言っていた暴露大会、しないんですか?」
優子の口角が上がったまま、悪戯を目論む子どものような顔で笑った。
「あぁ、そうだったな。ニケ、何か暴露しろ。あるだろ、アレ」
「何だよその言い方。雑すぎるし、こんな流れじゃ絶対言わない」
「優子も聞きたいよな? ニケの暴露」
「ええ、そうですね」
「えぇー?」
あからさまに困った顔のニケは、次第に目を回し始めた。そんな反応も相変わらず可愛らしい。それにしても火照っていた体が冷えたのか、いつも通りの白い顔に戻った優子は、酒を飲んでも全くいつもと変わらず理性を保っているように見える。風呂に入っていた時の方がよっぽど酔っ払っているみたいだった。ニケは困惑した顔で腕を組み、うーんと必死に考えていた。
「それなら僕、いつか師匠に聞いてみたい事があったんだ」
「おぉ、急に改まったな。何でも聞いてくれよ」
「師匠ってさ、何で師匠って呼べってみんなに言うの?」
思い返せば確かにオレは、この2人にはもちろん、バーに来る女の子たちにもその話題をしたことは無かった。
「あぁ、その事な。優子も聞きたいか?」
「えぇ。是非」
「そっか。じゃあそれ、話すか」
この話を誰かにするのはオレ自身も初めてだ。柄にもなく緊張してきたオレは、大きく息を吸って意を決した。
「結論から言うと、実はオレにも師匠がいたんだよ。これはオレがちょうどニケぐらいの年頃の話だ」