「藍染って、男も好きになれるタイプ?」
体育の授業が終わって教室に戻るとき、藍染が廊下で絡まれているのを見かけた。心臓が縮こまる思いだった。
「え? 何で?」
藍染がキョトンとしたように返答をする。
「だって、円城寺さんに言い寄られてんのに全然嫌がらねーじゃん?」
「普通はもっと、『うわ、キモ!』とかさ、『俺の彼女狙うんじゃねーよ』とかー」
胸がざわつく心地がした。
「藍染!」
私が呼びかけると、藍染に絡んでいた彼らはハッとした様子になった。「やべ」、「彼女に聞かれてんじゃん」と足早に逃げ去っていく。
「星紗ちゃん」
「なにあれ、大丈夫?」
私が心配して駆け寄るけど、藍染はへらりと笑った。
「あー、うん。別に。……ていうか、俺が好きなのは星紗ちゃんだけで円城寺さんのことは何とも思ってないし。安心して」
「……それは、わかってるけど」
自分の中で、焦りが大きくなっていくのがわかる。まさか、私の知らないところで藍染があることないこと言われているなんて知らなかった。
もし事態が悪化して、一年前の私の時のようなことになってしまったら……。
耳にこびりついた笑い声を鮮明に思い出して、苦しくなった。
「あれっ、奇遇だね!」
そのとき、また良すぎるタイミングで円城寺さんが通りかかった。移動教室から戻る途中なのか教科書とノートを持っていた。
「あんまり、私たちに近づかないでもらえますか……」
どうしてか、私は唐突にそう硬い声で突き放してしまっていた。
円城寺さんは虚をつかれたように黙る。
「……どうして?」
少し悲しみの色が瞳に滲んでいるのを見て、胸が痛んだ。
「……私、誰にも傷ついてほしくないんです。円城寺さんがそうやって構ってくるから、藍染が『男も好きになれるタイプ?』とかあることないこと言われて……。お願いだから、もう三人でつきあいたいとかそういうこと言わないでください……」
「星紗ちゃん……」
藍染は困った声で言うけれど、気持ちは変わらなかった。
「なるほど……。悪いことしちゃったな。うん、よしじゃあ、僕が誤解を解こう! そうすれば……」
「やめてください! 傷ついてほしくないの。藍染にも……円城寺さんにも」
それだけ言うと、円城寺さんの言葉を待たずに藍染の手を引っ張って逃げ出した。
体育の授業が終わって教室に戻るとき、藍染が廊下で絡まれているのを見かけた。心臓が縮こまる思いだった。
「え? 何で?」
藍染がキョトンとしたように返答をする。
「だって、円城寺さんに言い寄られてんのに全然嫌がらねーじゃん?」
「普通はもっと、『うわ、キモ!』とかさ、『俺の彼女狙うんじゃねーよ』とかー」
胸がざわつく心地がした。
「藍染!」
私が呼びかけると、藍染に絡んでいた彼らはハッとした様子になった。「やべ」、「彼女に聞かれてんじゃん」と足早に逃げ去っていく。
「星紗ちゃん」
「なにあれ、大丈夫?」
私が心配して駆け寄るけど、藍染はへらりと笑った。
「あー、うん。別に。……ていうか、俺が好きなのは星紗ちゃんだけで円城寺さんのことは何とも思ってないし。安心して」
「……それは、わかってるけど」
自分の中で、焦りが大きくなっていくのがわかる。まさか、私の知らないところで藍染があることないこと言われているなんて知らなかった。
もし事態が悪化して、一年前の私の時のようなことになってしまったら……。
耳にこびりついた笑い声を鮮明に思い出して、苦しくなった。
「あれっ、奇遇だね!」
そのとき、また良すぎるタイミングで円城寺さんが通りかかった。移動教室から戻る途中なのか教科書とノートを持っていた。
「あんまり、私たちに近づかないでもらえますか……」
どうしてか、私は唐突にそう硬い声で突き放してしまっていた。
円城寺さんは虚をつかれたように黙る。
「……どうして?」
少し悲しみの色が瞳に滲んでいるのを見て、胸が痛んだ。
「……私、誰にも傷ついてほしくないんです。円城寺さんがそうやって構ってくるから、藍染が『男も好きになれるタイプ?』とかあることないこと言われて……。お願いだから、もう三人でつきあいたいとかそういうこと言わないでください……」
「星紗ちゃん……」
藍染は困った声で言うけれど、気持ちは変わらなかった。
「なるほど……。悪いことしちゃったな。うん、よしじゃあ、僕が誤解を解こう! そうすれば……」
「やめてください! 傷ついてほしくないの。藍染にも……円城寺さんにも」
それだけ言うと、円城寺さんの言葉を待たずに藍染の手を引っ張って逃げ出した。