「え!? まだ続いてんの!?」
「うん……」
 例によって体育の授業中。
 私は、円城寺さんからのバスボムがあれから毎日靴箱に入れられているということを香奈に報告していた。
「いいじゃん、もうつきあっちゃえば?」
「やだよ、私には藍染が居るし……」
「だからー、円城寺さんもそれはわかってて、三人でつきあおうって言ってるんでしょ」
「倫理観がおかしいもん」
「あはは、だよねー。言ってみただけー」
「ちょっと面白がってない……?」
 そう言ったところで、遠くから、「香奈ー、ちょっとこっちきてー」と知らない子が声を上げているのが聞こえた。
「あー、クラスの子だわ。ちょっと行ってくる」
 香奈は笑って立ち上がると「なにー」と楽しそうに言って駆けていく。
 退屈になった私は体育館の床に座ったまま、皆のバレーの試合を眺めていた。
「ねえ」
 声をかけられて顔を上げる。そばに、緊張した面持ちの森永さんが立っていた。
「も、森永さん」
「あの……」
 その時、ひそひそとこちらを見て何かを話す女子たちが遠目に見えた。
 やっぱり何でもない、と森永さんは何か察したように足早に去っていった。
「星紗、大丈夫!?」
 森永さんがいなくなるとすぐさま、香奈が飛んできた。
「え、大丈夫だけど」
「だめでしょ、森永さんと話してたら……! 前みたいなことになるよ」
「……」
 私は、遠ざかっていく森永さんの華奢な背中を眺めた。何も言えなかった。