「二人とも今から放課後デート?」
 帰りのSHR(ショートホームルーム)も終わり、藍染と並んで昇降口へ向かっていると、円城寺さんと鉢合わせてしまった。
 今朝、私たちに振られたばかりなのに落ち込んでいるそぶりなどなく、愛想よく笑いかけてくる。これが先輩の余裕?
「まあ……」
「いいなあ! 僕もまぜてくれないかな」
「それはちょっと」
 即座に断る私。
「そんな毛嫌いしないで。さみしいじゃないか」
「毛嫌いっていうか、警戒してるんですよ」
「警戒?」
 大きな瞳を瞬いて、円城寺さんは私の問いに首を傾ける。
「いや……、だって、普通は三人でつきあおうとか言わないじゃないですか」
「でも【普通】の基準は、人によって違うよ?」
 円城寺さんがサラリと深いことを言ったので、ヒヤリとした。
「そうだ。ちなみに、今朝言いそびれたけど、白瀬さんのバスボムはバニラの香りで、藍染くんのはシトラスの香りだよ」
「はあ……」
 曖昧に返事をする。しとらすってなんだっけ。
「そういえば、円城寺さんって俺らのどこが好きなの?」
 邪気の無い瞳で藍染が尋ねると、円城寺さんは語り始めた。
「それはね、僕が君たちを初めて見たのは二週間前だったんだけど」
 円城寺さんは、ふと廊下の端で、物理の教科書を忘れた私が、藍染から教科書を借りているのを見かけたのだという。
「その時、僕は思ったんだ。かわいいなあ!って」
「え、どこがですか?」
「からかわれたら恥ずかしいからって、わざわざ教室からちょっと離れた人目のない廊下で教科書を貸すっていう藍染くんも可愛いし、彼氏に教科書借りることになって照れてる白瀬さんもとてつもなく可愛かった。二人まとめて守ってあげたいと思ったんだよ!」
「聞いてもいまいち納得できないんですが……」
 やっぱり変、この人。