「それで~?」
「断ったよ……」
 興味津々といった様子で見つめてくる香奈(かな)に、私は弱々しく答えた。
「えー? 円城寺さん頭も顔もスタイルもいいし、思い切ってつきあっちゃえばよかったのに」
「倫理的に考えてムリでしょ……」
 私と藍染が付き合っているところに、円城寺さんが混ざって三人でつきあうなんてどう考えても異常だ。
 体育のバレーの試合を横目に、香奈は「ふうん?」とだけ言ってにやけている。
 香奈は去年まで同じクラスだった私の親友だ。二年になってからは私がA組、香奈がB組とクラスが離れてしまったけど、体育の授業は隣のクラスと合同で行われるのでこうして一緒に受けることができた。
「まあ円城寺さん振ったのはもったいないけど、でも星紗は藍染くん超大好きだし仕方ないか~。今朝も、『藍染、寝坊したらしくて同じ電車のれなかった……』って悲しそうに私にLIMEしてきたもんねー」
「ちょ、やめてよ」
 肘でこづかれたとき、不意に視線を感じた。
 少し遠くの壁にもたれている森永(もりなが)さんが、こちらを見つめていたのだ。
「星紗さ、森永さんとクラス離れてよかったよね」
 香奈も視線に気づいたのか、ぽつりと言葉をこぼす。
 その途端、一年の時の苦い記憶がよみがえってきた。
 くすくすという耳にこびりついた笑い声が。
「えっと……」
 香奈の言葉に何て受け答えするのが正解か迷っていると、試合終了の合図の笛が鳴り響いた。
「あ、次の試合うちらのチームじゃん。星紗、行こ」
「う、うん」
 立ち上がった時には、森永さんはもうこちらを見ていなかった。