「白瀬さん、やっと使ってくれたんだね。バスボム」
にこやかな円城寺さんに何とも言えず、私は黙る。
私と藍染が朝一番に空き教室へ行くと、そこでは円城寺さんと――森永さんが待っていた。
今までもらったバスボムを全て溶かしてみたら、どれも同じ内容の手紙が入った瓶が埋め込まれていた。きっと、靴箱に入れられたバスボムは、私をこっそりと呼び出すための手段だったのだ。けど、もらったバスボムを一度も使ってなかったから、私は今まで手紙の存在には気が付けなかった。
それでも一人で行くのは何となく躊躇われて、私は藍染にLIMEで事の次第を説明し、二人で朝早く学校にやってきた。
「このバスボムって、本当は森永さんが?」
私は森永さんに向けて尋ねると、彼女は微かに頷いた。
「……私ずっと、星紗ちゃんに直接謝りたかったの。一年のとき、私のせいで辛い思いをさせたから。……でも、皆がいる前で声をかけるのは勇気がいるし、私が星紗ちゃんのそばにいるだけで周りの子に何か言われる。だから手紙で呼び出そうと思ったけど、星紗ちゃんの下駄箱に手紙が入れたことがバレたら、皆がまた嫌な事言うんじゃないかって思ったら怖くて……」
森永さんは教えてくれた。
勇気をふりしぼり、部活の先輩の円城寺さんに相談したら、彼に「バスボムは?」と提案されたのだという。簡単に作れるし、バスボムの中に手紙を入れれば、溶かすまでわからないと。
目から鱗だった。でも、それでも不安だった。そもそも、靴箱にバスボムなんて入れたら、彼氏の藍染に「星紗ちゃんに好意を寄せる男子からの贈り物なのでは?」と余計な心配をさせてしまうかもと。そしたら、またしても円城寺さんがこう助言した。
じゃあ、彼氏の靴箱にもバスボムを入れてカムフラージュすればいい。
「だけど、初めてバスボムを入れた日、星紗ちゃんが『誰からだろう怪しい』って言ってたでしょ。怪しまれたらバスボム使ってもらえないだろうし、中に入れた手紙も読んでもらえない。あせってたら、円城寺さんが突然二人の前にでていってあんなことを……」
「自分に好意を寄せるイケメンからの贈り物だと思ったら、使いたくなるかなと思って」
にこにこしながら円城寺さんはサラリと言った。
しかし、おかしな嘘をついた結果、余計に私にバスボムを使ってもらえなくなった。仕方なく、毎日同じ内容の手紙を書いて、手紙入りのバスボムを私の靴箱にいれて、藍染には普通のバスボムを入れて……。今日こそは使ってくれただろうかと祈るような気持ちで毎朝七時、二人でここで待っていたのだという。
森永さんは、ぺこりと私の前で頭を下げた。
「一年前はごめんなさい。私がラブレター贈ったせいで、皆から揶揄われて……。私のこと、気持ち悪いと思ったでしょ?」
「そんな……」
「それはちがうよ」
藍染がきっぱりと言い、森永さんが驚いたように顔を上げる。
「悪いのは面白おかしく騒ぎ立てる人達で、絶対森永さんじゃない。従弟に男の人同士でつきあってる人いるからわかるよ」
私は目を瞬いた。
藍染が、森永さんや円城寺さんのことを一度も悪く言わなかったわけがわかった。
胸がぎゅっとなった心地がし、「森永さん」と彼女の名を呼ぶ。
「私、森永さんからもらったラブレターが生まれて初めてもらったラブレターだった。びっくりしたけど、でも、私は森永さんに好かれてたって知って、嫌な気持ちにはならなかったよ。皆にからかわれるのがつらかっただけで、森永さんのことを気持ち悪いと思ったことはない」
「嘘」
森永さんは、震えた声で言い、ぽろぽろと涙をこぼす。
「私こそ、いろいろ上手くできなくて、ごめんね」
「ううん……」
彼女は、ホッとしたのかぬれた目尻を指でぬぐった。「よかったね」、と円城寺さんも満足げ。
森永さんは苦笑して顔を上げた。
「でも部長が、ひねった嘘つくからややこしくなっちゃったじゃないですか。三人でつきあいたいとか……」
「嘘じゃないよ?」
「え」
私は石のように固まった。彼は良い笑顔で続ける。
「僕が森永さんに協力したのは、本当に二人のことが好きだったから。接点つくれるチャンス!って思ったからだよ」
え……?
「何度でも言うけど、三人でつきあわない?」
果たして、彼はまたそう素敵な笑顔で告げた。森永さんは呆けている。
「藍染、どうする?」
「うーん……どうしようね?」
二人で肩をすくめて、笑った。
教室の窓の向こうでは、桜がはらはらと散って、初夏を迎えようとしていた。
にこやかな円城寺さんに何とも言えず、私は黙る。
私と藍染が朝一番に空き教室へ行くと、そこでは円城寺さんと――森永さんが待っていた。
今までもらったバスボムを全て溶かしてみたら、どれも同じ内容の手紙が入った瓶が埋め込まれていた。きっと、靴箱に入れられたバスボムは、私をこっそりと呼び出すための手段だったのだ。けど、もらったバスボムを一度も使ってなかったから、私は今まで手紙の存在には気が付けなかった。
それでも一人で行くのは何となく躊躇われて、私は藍染にLIMEで事の次第を説明し、二人で朝早く学校にやってきた。
「このバスボムって、本当は森永さんが?」
私は森永さんに向けて尋ねると、彼女は微かに頷いた。
「……私ずっと、星紗ちゃんに直接謝りたかったの。一年のとき、私のせいで辛い思いをさせたから。……でも、皆がいる前で声をかけるのは勇気がいるし、私が星紗ちゃんのそばにいるだけで周りの子に何か言われる。だから手紙で呼び出そうと思ったけど、星紗ちゃんの下駄箱に手紙が入れたことがバレたら、皆がまた嫌な事言うんじゃないかって思ったら怖くて……」
森永さんは教えてくれた。
勇気をふりしぼり、部活の先輩の円城寺さんに相談したら、彼に「バスボムは?」と提案されたのだという。簡単に作れるし、バスボムの中に手紙を入れれば、溶かすまでわからないと。
目から鱗だった。でも、それでも不安だった。そもそも、靴箱にバスボムなんて入れたら、彼氏の藍染に「星紗ちゃんに好意を寄せる男子からの贈り物なのでは?」と余計な心配をさせてしまうかもと。そしたら、またしても円城寺さんがこう助言した。
じゃあ、彼氏の靴箱にもバスボムを入れてカムフラージュすればいい。
「だけど、初めてバスボムを入れた日、星紗ちゃんが『誰からだろう怪しい』って言ってたでしょ。怪しまれたらバスボム使ってもらえないだろうし、中に入れた手紙も読んでもらえない。あせってたら、円城寺さんが突然二人の前にでていってあんなことを……」
「自分に好意を寄せるイケメンからの贈り物だと思ったら、使いたくなるかなと思って」
にこにこしながら円城寺さんはサラリと言った。
しかし、おかしな嘘をついた結果、余計に私にバスボムを使ってもらえなくなった。仕方なく、毎日同じ内容の手紙を書いて、手紙入りのバスボムを私の靴箱にいれて、藍染には普通のバスボムを入れて……。今日こそは使ってくれただろうかと祈るような気持ちで毎朝七時、二人でここで待っていたのだという。
森永さんは、ぺこりと私の前で頭を下げた。
「一年前はごめんなさい。私がラブレター贈ったせいで、皆から揶揄われて……。私のこと、気持ち悪いと思ったでしょ?」
「そんな……」
「それはちがうよ」
藍染がきっぱりと言い、森永さんが驚いたように顔を上げる。
「悪いのは面白おかしく騒ぎ立てる人達で、絶対森永さんじゃない。従弟に男の人同士でつきあってる人いるからわかるよ」
私は目を瞬いた。
藍染が、森永さんや円城寺さんのことを一度も悪く言わなかったわけがわかった。
胸がぎゅっとなった心地がし、「森永さん」と彼女の名を呼ぶ。
「私、森永さんからもらったラブレターが生まれて初めてもらったラブレターだった。びっくりしたけど、でも、私は森永さんに好かれてたって知って、嫌な気持ちにはならなかったよ。皆にからかわれるのがつらかっただけで、森永さんのことを気持ち悪いと思ったことはない」
「嘘」
森永さんは、震えた声で言い、ぽろぽろと涙をこぼす。
「私こそ、いろいろ上手くできなくて、ごめんね」
「ううん……」
彼女は、ホッとしたのかぬれた目尻を指でぬぐった。「よかったね」、と円城寺さんも満足げ。
森永さんは苦笑して顔を上げた。
「でも部長が、ひねった嘘つくからややこしくなっちゃったじゃないですか。三人でつきあいたいとか……」
「嘘じゃないよ?」
「え」
私は石のように固まった。彼は良い笑顔で続ける。
「僕が森永さんに協力したのは、本当に二人のことが好きだったから。接点つくれるチャンス!って思ったからだよ」
え……?
「何度でも言うけど、三人でつきあわない?」
果たして、彼はまたそう素敵な笑顔で告げた。森永さんは呆けている。
「藍染、どうする?」
「うーん……どうしようね?」
二人で肩をすくめて、笑った。
教室の窓の向こうでは、桜がはらはらと散って、初夏を迎えようとしていた。