私が初めてラブレターをもらったのは、去年の夏だった。
夏休み中に数Bの補習があって、帰りに靴箱を開けたら手紙が入っていたのだ。
綺麗な字で書かれた「白瀬星紗さんへ」という宛名と目が合ってドキリとした。
そして、意外なことに差出人の名前は封筒の裏面にしっかりと書かれていた。
その名前を見て驚いた。
《森永 美津より。》
私にラブレターをくれたのは、同じクラスの女の子だったのだ。
便せん二枚に私への想いが一途に綴ってあった。
入学式のときに一目見て好きになったこと。席がえで近くなったとき笑い方が可愛いなと思ったこと――。
うまれて初めて向けられた好意は、同性からのもの。「……!?」という感情で一瞬頭がいっぱいになったけど、何だかやたらドキドキした。気持ち悪いとは思わなかった。
返事まってます、という文で締めくくられたそのラブレター。私は夏休み中、悩みに悩んで「ごめんなさい」という内容の手紙を彼女に出した。
*
「森永って、白瀬さんのこと好きらしいよ」
「ラブレターだしたってマジ?」
「百合じゃん……」
夏休み明け。
どうしてだか、クラスではそんな会話が中心となっていた。なぜバレたのかいまだにわからない。皆、森永さんをどこか遠巻きに避けていて、彼女はクラスで孤立しかけていた。きっと身を切られるような思いで教室にいたと思う。
でも私はそんな森永さんを気に掛けていた。勇気をだして想いをうちあけてくれた彼女に、こんなふうに周りに騒ぎ立てられて傷ついてほしくなかったのだ。移動教室の時やお弁当の時も、自分のグループに彼女を誘った。けれど、私は次第にこんなことを言われるようになった。
「白瀬さん、女子から告白されたのに気持ち悪くないの?」
「ていうか、白瀬さん、森永さんとよく一緒にいるようになったし、告白されてまんざらでもなさそーじゃん」
「白瀬さんも女の子が好きなの?」
「それならもうつきあっちゃえば」
冗談半分に言われて、どうしたらいいのかわからなくなった。
香奈は事あるごとにかばってくれたけど、教室にいるだけでくすくすと笑い声を立てられるようになって、つらくなった私は保健室登校をするようになった。
部活がある香奈に代わって、毎日放課後にプリントを届けに来てくれたのは、藍染だった。「今日、化学の先生が実験で失敗して服ちょっと燃やしてた」とか、そんな他愛のない話をきかせてくれて、次第に一日のなかで藍染が保健室に来てくれるのを楽しみに待つようになった。
しかも、藍染は皆とちがって森永さんのことを悪く言わなかったから、そこも好印象だった。
優しくて、面白くて、そばにいると落ち着く。
そんな彼に惹かれるのに時間は掛からなかった。少しずつだけれど、教室にも足を運べるようになったのは、藍染や香奈が同じクラスだったことも大きいと思う。
そして冬になるころ、藍染からの告白を受けて私たちはつき合い始めた。
やがて私と藍染が交際に発展したことを知ったのか、私と森永さんの件を口にする人は目に見えて減っていった。私は森永さんには勝手に気まずさを覚えていて、あと周囲の視線が気になるのもあって、同じクラスにいながらも彼女とはほとんど接することがなかった。
夏休み中に数Bの補習があって、帰りに靴箱を開けたら手紙が入っていたのだ。
綺麗な字で書かれた「白瀬星紗さんへ」という宛名と目が合ってドキリとした。
そして、意外なことに差出人の名前は封筒の裏面にしっかりと書かれていた。
その名前を見て驚いた。
《森永 美津より。》
私にラブレターをくれたのは、同じクラスの女の子だったのだ。
便せん二枚に私への想いが一途に綴ってあった。
入学式のときに一目見て好きになったこと。席がえで近くなったとき笑い方が可愛いなと思ったこと――。
うまれて初めて向けられた好意は、同性からのもの。「……!?」という感情で一瞬頭がいっぱいになったけど、何だかやたらドキドキした。気持ち悪いとは思わなかった。
返事まってます、という文で締めくくられたそのラブレター。私は夏休み中、悩みに悩んで「ごめんなさい」という内容の手紙を彼女に出した。
*
「森永って、白瀬さんのこと好きらしいよ」
「ラブレターだしたってマジ?」
「百合じゃん……」
夏休み明け。
どうしてだか、クラスではそんな会話が中心となっていた。なぜバレたのかいまだにわからない。皆、森永さんをどこか遠巻きに避けていて、彼女はクラスで孤立しかけていた。きっと身を切られるような思いで教室にいたと思う。
でも私はそんな森永さんを気に掛けていた。勇気をだして想いをうちあけてくれた彼女に、こんなふうに周りに騒ぎ立てられて傷ついてほしくなかったのだ。移動教室の時やお弁当の時も、自分のグループに彼女を誘った。けれど、私は次第にこんなことを言われるようになった。
「白瀬さん、女子から告白されたのに気持ち悪くないの?」
「ていうか、白瀬さん、森永さんとよく一緒にいるようになったし、告白されてまんざらでもなさそーじゃん」
「白瀬さんも女の子が好きなの?」
「それならもうつきあっちゃえば」
冗談半分に言われて、どうしたらいいのかわからなくなった。
香奈は事あるごとにかばってくれたけど、教室にいるだけでくすくすと笑い声を立てられるようになって、つらくなった私は保健室登校をするようになった。
部活がある香奈に代わって、毎日放課後にプリントを届けに来てくれたのは、藍染だった。「今日、化学の先生が実験で失敗して服ちょっと燃やしてた」とか、そんな他愛のない話をきかせてくれて、次第に一日のなかで藍染が保健室に来てくれるのを楽しみに待つようになった。
しかも、藍染は皆とちがって森永さんのことを悪く言わなかったから、そこも好印象だった。
優しくて、面白くて、そばにいると落ち着く。
そんな彼に惹かれるのに時間は掛からなかった。少しずつだけれど、教室にも足を運べるようになったのは、藍染や香奈が同じクラスだったことも大きいと思う。
そして冬になるころ、藍染からの告白を受けて私たちはつき合い始めた。
やがて私と藍染が交際に発展したことを知ったのか、私と森永さんの件を口にする人は目に見えて減っていった。私は森永さんには勝手に気まずさを覚えていて、あと周囲の視線が気になるのもあって、同じクラスにいながらも彼女とはほとんど接することがなかった。