「誰が暗殺を依頼したんだ?」
「そうだ。誰がステラ様を殺そうとしているんだ? 王位継承権は三番目で脅威にはならないはずだろ?」
三番目という言葉を聞き、少し嫌な顔をステラがしている。口には出さないが気にしているようだが、リルがどう説明をしてくるのか。
敬愛するステラを殺そうとするぐらいだから、言いにくいとは思うが。
「教えてくれ。誰が殺そうとしたんだ?」
「そ、それは……」
やはりすぐには言えないようだ。
もしノア達に言ったことがバレたら命令違反で処罰をされる恐れがある。だが、リルには悪いがそんなこと関係ない。ノア達はすぐにでも命令をした人を知らなければ、対処ができなくなってしまうからだ。
「リルさん。私を暗殺しようとした人を教えてください」
「言えません! そこを言ってしまったら私は……」
「私が守ります! リルさんが守ってくれているように! 次は私が守る番です!」
「姫様……分かりました……」
リルは言う決意をしたようだ。
まさか頼りないと思っていたステラが、あそこまで言うとは思っていなかった。感情に訴えて言わせると思っていたが、この短期間で心境の変化があったみたいだ。
「私に命令をしたのは、王国騎士辺境統括のユベルよ」
「王国騎士団長の直轄組織の人ね。ということは命令を出した大本は王国騎士団長っていうことになるわね」
ノアとロゼ以外ユベルと聞いてすぐに大筋を理解しているようだ。
しかし話が分からない二人は、頭にハテナマークを浮かべて話を聞くしかできない。
「でもなぜ姫様を暗殺するのか、命令を受けた私さえ知りません。ユベルに聞いても遂行しろとしか言わなかったです」
「そいつ自身も知らされていないんだろうな。王国騎士は縦社会だから下は逆らえない構造だ。だからユベルは何も知らないと思った方がいいだろう」
「ですが任務を達成したかユベルは私に聞きに来るでしょう。その時に姫様が生きていたらすぐに王国騎士団長に報告しに行くはずです」
「厄介だな。いつ来るのか分かるのか?」
小難しい話しが繰り広げられている。
ノアとロゼは理解できない話しを聞かず、近くにある壊れた噴水を眺めていた。
「これも早く直さないとな」
「うん! この噴水大好きだから、壊れて悲しかったぁ」
俯いて涙を流しているロゼ。
大罪人ではないとはいえ、このような辺境の村には娯楽がほぼない。子供にとっては日々目にする綺麗な噴水であるため、壊れてしまって悲しい気持ちは分かる。
早く直してあげたいがノアにはその技術がないので、技術を持つ人を早く探さなければ。
「俺達大罪人がすぐに直すさ。ロゼは笑顔で直している人を応援してあげてくれ」
「分かった! 私の応援で元気にするね!」
良い笑顔だ。ロゼはここに流れ着いた老夫婦が連れて来た子供だ。どこかの貴族が産ませた妾の子供らしいが、ここでは関係ない。
様々な事情で大罪人になったり、辺境の村に流れ着く人が多いので裏事情は聞かないと暗黙の了解になっているのだ。
「ねえ、聞いてる?」
話を聞いていないと思ったのだろうか、ステラが袖を軽く引っ張りながら話しかけてきた。
「分からなかったから、ロゼと話してたよ」
「ちゃんと聞いていなきゃダメよ! また説明をするの大変なんだからね!」
ステラに怒られてしまった。
ちゃんとと言われても、話しが小難しくて分からないのは仕方がない。分からないと言えばよかったが、邪魔しないようにしたノアの気持ちも理解してほしいものだ。
「ごめん。後で聞こうと思ってたよ」
「ちゃんと聞いてよ! ノア君にも大切な事なんだよ!」
怒られてしまった。
怒られて当然のことをしたのだが、説明が大変とはどういうことだろう。それほど複雑で難しいことを話していたとは思えないのだが。
「話しを聞いていなかった俺が言うのはおかしいけど、話しの内容を教えてくれないか?」
謝りながらステラに言うと、リラが軽く頭を叩いてくる。
パンッという甲高い音が発生したがさほど痛くはなかった。どうやら手加減をしてくれたようだ。
「それで許してあげるわ。次からは聞くのよ」
「分かったよ。てか急に距離感近くない?」
「そうかしら? 私はもとからこうよ」
絶対に違う。少し前までは触ることすら嫌がっていたくせに。
心境の変化が凄まじすぎる。突っ込んだら何を言われるか分からないから、言えないのがもどかしい。
「そうか、ならいいけどさ。じゃ、そろそろ教えてくれないか」
話しが反れないように強引に元に戻すと、ステラはちゃんと聞いてねと念押しをしてくる。
「まず、私を暗殺しろって命じたのは王国騎士団長ノクスです。ノクスは王族ではないのですが、お父様……国王の次に権力を持つ人です。なので国王がノクスに命じてリラさんが実行する手筈になっていたと思います」
「実の父親が娘を殺そうとしたということ!?」
ノアが驚きながら言葉を発していると、ヘリスがそういう男だと言ってくる。
「あいつはそういう人間だ。自身の利益を害するのであれば実の娘であっても殺す。それだけ非情で子供に関心がない最低な男なんだよ」
「そ、そんな! 実の子供まで邪魔者扱いかよ! そんなのおかしいだろ!」
「それが今、このオーレリア王国を支配している国王の正体なんだよ。上が腐れば下部組織の王国騎士団も腐る。腐敗が伝染しているんだ」
親が子供を暗殺させるなんて馬鹿げている。
大切な家族で、守るべき存在が子供のはずだ。それなのに利益を害するから暗殺をするなんて人間の所業じゃない。
「俺は大罪人だ――だけど夢は生き別れた妹に会いたい、ただこれだけだ。そのための障害なら振り払う覚悟がある。ステラ、君はどうだ?」
「わ、私は……」
「父親を倒し、国を救う? それとも抗わずに文句を言うだけの傀儡になるか?」
リラが言い過ぎだと叫んでいるが、ヘリスが止めていた。
ここでステラの意志を聞かなければ抗うことなど無理だ。暗殺に怯える日々を過ごすことはさせたくないが、強制はさせたくない。
「どうする? ステラは抗うか?」
呼び捨てにしてしまっているが、それは後で謝ればいい。
今はステラ自身の覚悟を知りたい。どのように考えているのか、これからどうしたいのか、そこを改めて聞かないと先へは進めない。
「私は抗うわ。お父様をこのままにしていたら国が滅ぶし、国民を危険にさらすことになってしまう。それを防ぎたい!」
自分のことよりも国民を優先する言葉を聞き、ノアは苦笑してしまう。
「相変わらず不思議な人だな。自分よりも国民を優先とはね」
「王族として当然よ。国民あっての国で私達がいられるんだから。お父様達はそれを忘れて、国民を奴隷だと思っているんだと思う。それを変えなくてはオーレリア王国に未来はないわ」
確かにその通りだ。
大罪人としてこれまで多くの王国騎士に出会ったが、全員が腐っていた。それは王族や国が腐敗をしていたからだ。ステラこそがその体制を変える最後の希望といえる。
「そこでだけど、ノア君に私の騎士になってもらいたいの。一緒にこの国を変えてほしい!」
「ちょ、ステラ様!? 大罪人を騎士にするなんて聞いたことがないです!」
リラが慌てている。
それほどまでに、王族が大罪人を騎士とすることの前例がないらしい。
そもそも騎士ならば王国騎士がいるので、その中から選べばいいだけだ。わざわざ大罪人を騎士にする必要などない。
「そうだけど、ノア君とならこの国を変えられる気がするの。妹さんとも会える確率が増えるだろうし、どうかな?」
突然の騎士発言でノアは戸惑っていた。
大罪人であるのに騎士になった人など聞いたことがないし、王国騎士や王族からの反発は凄まじいものになるだろう。だが、そこまで考えてくれたことは嬉しい。
「どうかなって、大罪人を騎士になんて聞いたことない。立場が危うくなるよ!」
「関係ないわ。私はノア君と一緒に国を変えたいの。それに一緒に来ればある程度の自由が手に入るから、妹さんに会えるわよ」
ルナを話しに出すのは反則だ。
そんなことを言われたら心が揺らぐ。確かに騎士になれば自由が広がるが、本当になっていいのか。ステラの邪魔にならないだろうか。
「騎士になっていいのか?」
「うん」
「邪魔になるかもしれないぞ?」
「邪魔にならないし、ノア君は私に必要だよ」
必要だなんて初めて言われた。
本当に必要なのか理解できないが、目の前にいるステラが嘘を言うとは思えない。
「本当にいいのか?」
「いいよ」
「ステラの夢のために尽力するよ」
ステラは涙を流している。
何か変なことを言ったかと思ったが、すぐに嬉し泣きだと察した。
「これからよろしくね! 私の騎士様!」
「様なんてやめてくれ。普通にノアでいいよ」
守るものが増えたが、不思議と嫌じゃない。
リルに抱き喜んでいるステラを見ながら、守るために頑張るとノアは決めた。
「そうだ。誰がステラ様を殺そうとしているんだ? 王位継承権は三番目で脅威にはならないはずだろ?」
三番目という言葉を聞き、少し嫌な顔をステラがしている。口には出さないが気にしているようだが、リルがどう説明をしてくるのか。
敬愛するステラを殺そうとするぐらいだから、言いにくいとは思うが。
「教えてくれ。誰が殺そうとしたんだ?」
「そ、それは……」
やはりすぐには言えないようだ。
もしノア達に言ったことがバレたら命令違反で処罰をされる恐れがある。だが、リルには悪いがそんなこと関係ない。ノア達はすぐにでも命令をした人を知らなければ、対処ができなくなってしまうからだ。
「リルさん。私を暗殺しようとした人を教えてください」
「言えません! そこを言ってしまったら私は……」
「私が守ります! リルさんが守ってくれているように! 次は私が守る番です!」
「姫様……分かりました……」
リルは言う決意をしたようだ。
まさか頼りないと思っていたステラが、あそこまで言うとは思っていなかった。感情に訴えて言わせると思っていたが、この短期間で心境の変化があったみたいだ。
「私に命令をしたのは、王国騎士辺境統括のユベルよ」
「王国騎士団長の直轄組織の人ね。ということは命令を出した大本は王国騎士団長っていうことになるわね」
ノアとロゼ以外ユベルと聞いてすぐに大筋を理解しているようだ。
しかし話が分からない二人は、頭にハテナマークを浮かべて話を聞くしかできない。
「でもなぜ姫様を暗殺するのか、命令を受けた私さえ知りません。ユベルに聞いても遂行しろとしか言わなかったです」
「そいつ自身も知らされていないんだろうな。王国騎士は縦社会だから下は逆らえない構造だ。だからユベルは何も知らないと思った方がいいだろう」
「ですが任務を達成したかユベルは私に聞きに来るでしょう。その時に姫様が生きていたらすぐに王国騎士団長に報告しに行くはずです」
「厄介だな。いつ来るのか分かるのか?」
小難しい話しが繰り広げられている。
ノアとロゼは理解できない話しを聞かず、近くにある壊れた噴水を眺めていた。
「これも早く直さないとな」
「うん! この噴水大好きだから、壊れて悲しかったぁ」
俯いて涙を流しているロゼ。
大罪人ではないとはいえ、このような辺境の村には娯楽がほぼない。子供にとっては日々目にする綺麗な噴水であるため、壊れてしまって悲しい気持ちは分かる。
早く直してあげたいがノアにはその技術がないので、技術を持つ人を早く探さなければ。
「俺達大罪人がすぐに直すさ。ロゼは笑顔で直している人を応援してあげてくれ」
「分かった! 私の応援で元気にするね!」
良い笑顔だ。ロゼはここに流れ着いた老夫婦が連れて来た子供だ。どこかの貴族が産ませた妾の子供らしいが、ここでは関係ない。
様々な事情で大罪人になったり、辺境の村に流れ着く人が多いので裏事情は聞かないと暗黙の了解になっているのだ。
「ねえ、聞いてる?」
話を聞いていないと思ったのだろうか、ステラが袖を軽く引っ張りながら話しかけてきた。
「分からなかったから、ロゼと話してたよ」
「ちゃんと聞いていなきゃダメよ! また説明をするの大変なんだからね!」
ステラに怒られてしまった。
ちゃんとと言われても、話しが小難しくて分からないのは仕方がない。分からないと言えばよかったが、邪魔しないようにしたノアの気持ちも理解してほしいものだ。
「ごめん。後で聞こうと思ってたよ」
「ちゃんと聞いてよ! ノア君にも大切な事なんだよ!」
怒られてしまった。
怒られて当然のことをしたのだが、説明が大変とはどういうことだろう。それほど複雑で難しいことを話していたとは思えないのだが。
「話しを聞いていなかった俺が言うのはおかしいけど、話しの内容を教えてくれないか?」
謝りながらステラに言うと、リラが軽く頭を叩いてくる。
パンッという甲高い音が発生したがさほど痛くはなかった。どうやら手加減をしてくれたようだ。
「それで許してあげるわ。次からは聞くのよ」
「分かったよ。てか急に距離感近くない?」
「そうかしら? 私はもとからこうよ」
絶対に違う。少し前までは触ることすら嫌がっていたくせに。
心境の変化が凄まじすぎる。突っ込んだら何を言われるか分からないから、言えないのがもどかしい。
「そうか、ならいいけどさ。じゃ、そろそろ教えてくれないか」
話しが反れないように強引に元に戻すと、ステラはちゃんと聞いてねと念押しをしてくる。
「まず、私を暗殺しろって命じたのは王国騎士団長ノクスです。ノクスは王族ではないのですが、お父様……国王の次に権力を持つ人です。なので国王がノクスに命じてリラさんが実行する手筈になっていたと思います」
「実の父親が娘を殺そうとしたということ!?」
ノアが驚きながら言葉を発していると、ヘリスがそういう男だと言ってくる。
「あいつはそういう人間だ。自身の利益を害するのであれば実の娘であっても殺す。それだけ非情で子供に関心がない最低な男なんだよ」
「そ、そんな! 実の子供まで邪魔者扱いかよ! そんなのおかしいだろ!」
「それが今、このオーレリア王国を支配している国王の正体なんだよ。上が腐れば下部組織の王国騎士団も腐る。腐敗が伝染しているんだ」
親が子供を暗殺させるなんて馬鹿げている。
大切な家族で、守るべき存在が子供のはずだ。それなのに利益を害するから暗殺をするなんて人間の所業じゃない。
「俺は大罪人だ――だけど夢は生き別れた妹に会いたい、ただこれだけだ。そのための障害なら振り払う覚悟がある。ステラ、君はどうだ?」
「わ、私は……」
「父親を倒し、国を救う? それとも抗わずに文句を言うだけの傀儡になるか?」
リラが言い過ぎだと叫んでいるが、ヘリスが止めていた。
ここでステラの意志を聞かなければ抗うことなど無理だ。暗殺に怯える日々を過ごすことはさせたくないが、強制はさせたくない。
「どうする? ステラは抗うか?」
呼び捨てにしてしまっているが、それは後で謝ればいい。
今はステラ自身の覚悟を知りたい。どのように考えているのか、これからどうしたいのか、そこを改めて聞かないと先へは進めない。
「私は抗うわ。お父様をこのままにしていたら国が滅ぶし、国民を危険にさらすことになってしまう。それを防ぎたい!」
自分のことよりも国民を優先する言葉を聞き、ノアは苦笑してしまう。
「相変わらず不思議な人だな。自分よりも国民を優先とはね」
「王族として当然よ。国民あっての国で私達がいられるんだから。お父様達はそれを忘れて、国民を奴隷だと思っているんだと思う。それを変えなくてはオーレリア王国に未来はないわ」
確かにその通りだ。
大罪人としてこれまで多くの王国騎士に出会ったが、全員が腐っていた。それは王族や国が腐敗をしていたからだ。ステラこそがその体制を変える最後の希望といえる。
「そこでだけど、ノア君に私の騎士になってもらいたいの。一緒にこの国を変えてほしい!」
「ちょ、ステラ様!? 大罪人を騎士にするなんて聞いたことがないです!」
リラが慌てている。
それほどまでに、王族が大罪人を騎士とすることの前例がないらしい。
そもそも騎士ならば王国騎士がいるので、その中から選べばいいだけだ。わざわざ大罪人を騎士にする必要などない。
「そうだけど、ノア君とならこの国を変えられる気がするの。妹さんとも会える確率が増えるだろうし、どうかな?」
突然の騎士発言でノアは戸惑っていた。
大罪人であるのに騎士になった人など聞いたことがないし、王国騎士や王族からの反発は凄まじいものになるだろう。だが、そこまで考えてくれたことは嬉しい。
「どうかなって、大罪人を騎士になんて聞いたことない。立場が危うくなるよ!」
「関係ないわ。私はノア君と一緒に国を変えたいの。それに一緒に来ればある程度の自由が手に入るから、妹さんに会えるわよ」
ルナを話しに出すのは反則だ。
そんなことを言われたら心が揺らぐ。確かに騎士になれば自由が広がるが、本当になっていいのか。ステラの邪魔にならないだろうか。
「騎士になっていいのか?」
「うん」
「邪魔になるかもしれないぞ?」
「邪魔にならないし、ノア君は私に必要だよ」
必要だなんて初めて言われた。
本当に必要なのか理解できないが、目の前にいるステラが嘘を言うとは思えない。
「本当にいいのか?」
「いいよ」
「ステラの夢のために尽力するよ」
ステラは涙を流している。
何か変なことを言ったかと思ったが、すぐに嬉し泣きだと察した。
「これからよろしくね! 私の騎士様!」
「様なんてやめてくれ。普通にノアでいいよ」
守るものが増えたが、不思議と嫌じゃない。
リルに抱き喜んでいるステラを見ながら、守るために頑張るとノアは決めた。