「ほらここだ。お前は何回も来ているだろう?」
おやっさん改め、ヘリスに案内された場所は村の中心部だった。
家屋が崩れ、燃えている家屋ばかりだ。大罪人達が一生懸命消火活動をしている姿が見えるが、看守の姿はどこにも見当たらない。
ただ焼けた家屋や焼け焦げた死体があるだけで、とても休める場所があるとは思えないが本当にこの辺りにあるのだろうか。
「看守達は何をしているのですか?」
大罪人だけがいるのに疑問を感じたようだ。
そもそもこの状況であるなら、看守も一緒に村を立て直さなければならないはず。
「看守は村のどこかで酒盛りでもしてるだろうさ。自分達は安全な場所で戦闘が終わるのを待って、復興は大罪人だけにいつもやらせてるよ」
「そんなの酷すぎます! 毎回ですか!?」
「そうだ。王国騎士も看守も全員だぞ」
ヘリスの言葉にステラが「ごめんなさい……」と小さく言葉を漏らしている。
「お兄様やお姉様にはもう任せられない状態ですね。私がどうにかしないと」
顎に手を当ててステラが一人で呟いてる。
第三王女というからには、やはり兄や姉がいるようだ。一人で変えることなど不可能な国の体制の中で側近かは知らないが、あの堕落している王国騎士が頼りにはなるとは思えない。
足の引っ張り合いをしているこの国には、未来がないとノアは考えている。
「ま、精々頑張ってくれ。俺は生き別れた妹に出会えればそれでいい。この国の未来には興味がないからな」
「そんなことを言わないでください! 国に絶望をしているあなたも私は救いたいのです! 大罪人になったら死ぬまで大罪人だなんておかしいじゃないですか! 罪は償えます!」
「そうは言っても国の方針がね」
大罪人は死ぬまで一生大罪人だ。
いくら第三王女だとはいえ、そう簡単に国王が決めた規則は覆せない。変な期待は持たせないでほしいが、ノアはもしかしたらと思ってしまっていた。
「お話し中のところ悪いが、あそこの噴水まで行っていいか?」
ステラに話しかけようとした瞬間、ヘリスに先を越されてしまった。
「あ、行きましょう。ずっと立って話してましたから、座りたいですね」
ヘリスが腰を擦って痛そうにしている。
既に結構な年に言っているのにも関わらず、前線で戦っていたのだから仕方がない。むしろもう休んでほしいくらいだ。
ノアは先を歩く二人の背中を見ながら、村の惨状に改めて絶望をしてしまう。
「大罪人以外の普通の人も暮らしていたのに、どうしてここまでできるんだろう。ただ占領をしたかっただけなのか?」
血を流す子供を抱えて泣いている母親。
崩れた家の前で絶望している家族。
様々な人達が悲しんでいた。
テネア国とイルア皇国、そしてこの国の闇のせいで罪もない人々が苦しんでいる。
この状況を変えるには横を歩く第三王女、ステラ・オーレリアにどうにかしてもらうしかないが、本当にできるとかという疑問の方が多いのは変わらない。
「ノアさん、何か考え事?」
「悲しんでいる人ばかりだと思いまして。どうして争いが起こるんですかね」
独り言を聞かれていたようだ。
第三王女であるステラに変なことを言って問題になったら困る。言葉を慎重に選ばないと。
「そうね……お父様や王国騎士がちゃんとしていればここまで被害は出なかったかもしれないわ。でも、ノア君のおかげで生きている人がたくさんいるのよ」
「だとしても、この惨状は酷すぎますよ」
ステラも周囲で悲しんでいる人を見ているが声をかけていない。
いや、かけられないと言った方が正しいかも知れない。第三王女がこの場にいることが知れたら何を言われるか分からないし、もしかしたら恨みを持つ人に殺される恐れがあるからだ。
「これも全てお父様と、国を守る使命を果たさない王国騎士のせいね。大罪人にばかり国防を押し付けていたからよ」
「そこまでは言わないけど、確かに王国騎士が守っている姿は見たことがないな」
王国を守らない王国騎士などいらない。
何のためになっているのだろうとノアが考えていると、どこからか自身の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ノアお兄ちゃん! ノアお兄ちゃん!」
「お、ロゼじゃないか。どうしたんだ?」
ノアの名前を呼びながら駆け寄って来たのは、地上に出た際にたまに喋るこの村に住む可愛らしい顔が印象的でノアに懐いているロゼという少女だ。
今にも擦り切れそうな青色の服を着ているが、そんなことは気にせずに笑顔で話しかけてくる。その眩しい笑顔に、戦場で疲弊した心が強制的に癒されていく。
「ノアお兄ちゃんがこの戦いを終わらせてくれたんでしょ! ありがとう!」
「俺は当然のことをしただけだよ。王国騎士が何もしないからさ」
「ヘリスお爺ちゃんもいるんだね! いつもの噴水に行くのー?」
「さすが鋭いな。お前さんの言う通り、噴水に行こうとしたんだよ」
「あそこ私も好きなんだけど、村が攻撃された時に壊れちゃったんだぁ……」
「そうか……でも大丈夫だ。壊れたのならまた作ればいい。俺達なら何度だってやり直せる」
ヘリスは屈み、ロゼと目線をあわせながら頭を撫でていた。
何度も村をノア達は立て直してきたが、大罪人としてはどうだろうか。やり直せた人を誰一人見たことがなく、大罪人は一生大罪人という烙印を押されるのだ。
「私も将来、ノアお兄ちゃんみたいになりたいな! 魔法でドカーンって悪い人達を倒して、村や国を守るんだ!」
「俺は大罪人だぞ? 別の夢にした方がいいって」
四人で楽しく談笑をしていると、突然リルがロゼを突き飛ばしながら割って入ってきた。
「大丈夫かロゼ!?」
「ノアお兄ちゃん……お膝擦り向いちゃったけど、大丈夫だよ……」
大丈夫だと言っているが、どう見ても悲痛な顔をしている。
小さな子供に王国騎士が、なぜこのようなことをするのか理解ができない。痛みを耐えているロゼをステラに任せ、ノアはリルの前に立つことにした。
「ステラ、ロゼを頼んだ。早く手当てをしてあげてくれ」
「何をする気なの!?」
「あいつは一度痛い目に合わせないとダメみたいだからな」
ロゼを一瞥したリルは、腰に差している剣を引き抜いて切先をノアに向けた。
「大罪人が舐めた口を聞くな! ステラ様を惑わせた罪は重いぞ!」
「惑わすなんてするわけない。俺のことをいくら馬鹿にしてもいいが、ロゼに危害を加えるのは間違っている。ロゼはただの子供だぞ」
ただの子供と聞いたリルは小さく喉を鳴らすように笑い、ハッキリと大罪人にすると言葉を発した。
「そこにいる子供を大罪人にしてもいいのよ?」
「どういう意味だ?」
「言葉通りよ。国と王国騎士に逆らう全ての人間は、大罪人になるべきなのよ!」
横暴な事ばかりを言い放つリルに対し、ステラがおかしいわと叫びながら目に涙を溜めて二人の間に躍り出てくる。
「国民を守る立場の王国騎士が横暴なことを言わないで! いつからそこまでおかしな組織になったの!」
「ステラ様まで大罪人の味方になったんですね。なら、私は自身の責務を果たすまでです」
守るべきステラさえも敵としたようだ。
どこまで腐っている考え方をするのだろうか。いや、王国騎士全体がこうなのかもしれない。
「どうしてこんなことをするの! 国民の命を守る王国騎士じゃないの!?」
「姫様にはお伝えしていませんでしたが、私達王国騎士は国王に従順な国民のみを守る任務があります。少しでもその意思に反する国民は大罪人として、命を国のために差し出してもらう罰を与えることになっています」
狂っている。
国民にだってそれぞれ意志や考えを持っている。
だが、国王や王国騎士はそれを認めずに従順な国民のみを選別して守っているということになる。そんなことを許してはいけない。
「そんなことは許さない――罪もない人を大罪人として私腹を肥やすための道具にするというのなら、お前達こそ大罪人だ! 俺が断罪する!」
「私達は大罪人ではない! 正義だ! 国王直属の命令のもと、正義の名を冠して行う神聖な王国騎士だ!」
叫びながら剣を振るってくる。
鋭い一撃だが、避けられないほどではない。頬の数センチ横を剣が通るのを確認すると、すかさずリルの腹部に拳を一撃入れた。
おやっさん改め、ヘリスに案内された場所は村の中心部だった。
家屋が崩れ、燃えている家屋ばかりだ。大罪人達が一生懸命消火活動をしている姿が見えるが、看守の姿はどこにも見当たらない。
ただ焼けた家屋や焼け焦げた死体があるだけで、とても休める場所があるとは思えないが本当にこの辺りにあるのだろうか。
「看守達は何をしているのですか?」
大罪人だけがいるのに疑問を感じたようだ。
そもそもこの状況であるなら、看守も一緒に村を立て直さなければならないはず。
「看守は村のどこかで酒盛りでもしてるだろうさ。自分達は安全な場所で戦闘が終わるのを待って、復興は大罪人だけにいつもやらせてるよ」
「そんなの酷すぎます! 毎回ですか!?」
「そうだ。王国騎士も看守も全員だぞ」
ヘリスの言葉にステラが「ごめんなさい……」と小さく言葉を漏らしている。
「お兄様やお姉様にはもう任せられない状態ですね。私がどうにかしないと」
顎に手を当ててステラが一人で呟いてる。
第三王女というからには、やはり兄や姉がいるようだ。一人で変えることなど不可能な国の体制の中で側近かは知らないが、あの堕落している王国騎士が頼りにはなるとは思えない。
足の引っ張り合いをしているこの国には、未来がないとノアは考えている。
「ま、精々頑張ってくれ。俺は生き別れた妹に出会えればそれでいい。この国の未来には興味がないからな」
「そんなことを言わないでください! 国に絶望をしているあなたも私は救いたいのです! 大罪人になったら死ぬまで大罪人だなんておかしいじゃないですか! 罪は償えます!」
「そうは言っても国の方針がね」
大罪人は死ぬまで一生大罪人だ。
いくら第三王女だとはいえ、そう簡単に国王が決めた規則は覆せない。変な期待は持たせないでほしいが、ノアはもしかしたらと思ってしまっていた。
「お話し中のところ悪いが、あそこの噴水まで行っていいか?」
ステラに話しかけようとした瞬間、ヘリスに先を越されてしまった。
「あ、行きましょう。ずっと立って話してましたから、座りたいですね」
ヘリスが腰を擦って痛そうにしている。
既に結構な年に言っているのにも関わらず、前線で戦っていたのだから仕方がない。むしろもう休んでほしいくらいだ。
ノアは先を歩く二人の背中を見ながら、村の惨状に改めて絶望をしてしまう。
「大罪人以外の普通の人も暮らしていたのに、どうしてここまでできるんだろう。ただ占領をしたかっただけなのか?」
血を流す子供を抱えて泣いている母親。
崩れた家の前で絶望している家族。
様々な人達が悲しんでいた。
テネア国とイルア皇国、そしてこの国の闇のせいで罪もない人々が苦しんでいる。
この状況を変えるには横を歩く第三王女、ステラ・オーレリアにどうにかしてもらうしかないが、本当にできるとかという疑問の方が多いのは変わらない。
「ノアさん、何か考え事?」
「悲しんでいる人ばかりだと思いまして。どうして争いが起こるんですかね」
独り言を聞かれていたようだ。
第三王女であるステラに変なことを言って問題になったら困る。言葉を慎重に選ばないと。
「そうね……お父様や王国騎士がちゃんとしていればここまで被害は出なかったかもしれないわ。でも、ノア君のおかげで生きている人がたくさんいるのよ」
「だとしても、この惨状は酷すぎますよ」
ステラも周囲で悲しんでいる人を見ているが声をかけていない。
いや、かけられないと言った方が正しいかも知れない。第三王女がこの場にいることが知れたら何を言われるか分からないし、もしかしたら恨みを持つ人に殺される恐れがあるからだ。
「これも全てお父様と、国を守る使命を果たさない王国騎士のせいね。大罪人にばかり国防を押し付けていたからよ」
「そこまでは言わないけど、確かに王国騎士が守っている姿は見たことがないな」
王国を守らない王国騎士などいらない。
何のためになっているのだろうとノアが考えていると、どこからか自身の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ノアお兄ちゃん! ノアお兄ちゃん!」
「お、ロゼじゃないか。どうしたんだ?」
ノアの名前を呼びながら駆け寄って来たのは、地上に出た際にたまに喋るこの村に住む可愛らしい顔が印象的でノアに懐いているロゼという少女だ。
今にも擦り切れそうな青色の服を着ているが、そんなことは気にせずに笑顔で話しかけてくる。その眩しい笑顔に、戦場で疲弊した心が強制的に癒されていく。
「ノアお兄ちゃんがこの戦いを終わらせてくれたんでしょ! ありがとう!」
「俺は当然のことをしただけだよ。王国騎士が何もしないからさ」
「ヘリスお爺ちゃんもいるんだね! いつもの噴水に行くのー?」
「さすが鋭いな。お前さんの言う通り、噴水に行こうとしたんだよ」
「あそこ私も好きなんだけど、村が攻撃された時に壊れちゃったんだぁ……」
「そうか……でも大丈夫だ。壊れたのならまた作ればいい。俺達なら何度だってやり直せる」
ヘリスは屈み、ロゼと目線をあわせながら頭を撫でていた。
何度も村をノア達は立て直してきたが、大罪人としてはどうだろうか。やり直せた人を誰一人見たことがなく、大罪人は一生大罪人という烙印を押されるのだ。
「私も将来、ノアお兄ちゃんみたいになりたいな! 魔法でドカーンって悪い人達を倒して、村や国を守るんだ!」
「俺は大罪人だぞ? 別の夢にした方がいいって」
四人で楽しく談笑をしていると、突然リルがロゼを突き飛ばしながら割って入ってきた。
「大丈夫かロゼ!?」
「ノアお兄ちゃん……お膝擦り向いちゃったけど、大丈夫だよ……」
大丈夫だと言っているが、どう見ても悲痛な顔をしている。
小さな子供に王国騎士が、なぜこのようなことをするのか理解ができない。痛みを耐えているロゼをステラに任せ、ノアはリルの前に立つことにした。
「ステラ、ロゼを頼んだ。早く手当てをしてあげてくれ」
「何をする気なの!?」
「あいつは一度痛い目に合わせないとダメみたいだからな」
ロゼを一瞥したリルは、腰に差している剣を引き抜いて切先をノアに向けた。
「大罪人が舐めた口を聞くな! ステラ様を惑わせた罪は重いぞ!」
「惑わすなんてするわけない。俺のことをいくら馬鹿にしてもいいが、ロゼに危害を加えるのは間違っている。ロゼはただの子供だぞ」
ただの子供と聞いたリルは小さく喉を鳴らすように笑い、ハッキリと大罪人にすると言葉を発した。
「そこにいる子供を大罪人にしてもいいのよ?」
「どういう意味だ?」
「言葉通りよ。国と王国騎士に逆らう全ての人間は、大罪人になるべきなのよ!」
横暴な事ばかりを言い放つリルに対し、ステラがおかしいわと叫びながら目に涙を溜めて二人の間に躍り出てくる。
「国民を守る立場の王国騎士が横暴なことを言わないで! いつからそこまでおかしな組織になったの!」
「ステラ様まで大罪人の味方になったんですね。なら、私は自身の責務を果たすまでです」
守るべきステラさえも敵としたようだ。
どこまで腐っている考え方をするのだろうか。いや、王国騎士全体がこうなのかもしれない。
「どうしてこんなことをするの! 国民の命を守る王国騎士じゃないの!?」
「姫様にはお伝えしていませんでしたが、私達王国騎士は国王に従順な国民のみを守る任務があります。少しでもその意思に反する国民は大罪人として、命を国のために差し出してもらう罰を与えることになっています」
狂っている。
国民にだってそれぞれ意志や考えを持っている。
だが、国王や王国騎士はそれを認めずに従順な国民のみを選別して守っているということになる。そんなことを許してはいけない。
「そんなことは許さない――罪もない人を大罪人として私腹を肥やすための道具にするというのなら、お前達こそ大罪人だ! 俺が断罪する!」
「私達は大罪人ではない! 正義だ! 国王直属の命令のもと、正義の名を冠して行う神聖な王国騎士だ!」
叫びながら剣を振るってくる。
鋭い一撃だが、避けられないほどではない。頬の数センチ横を剣が通るのを確認すると、すかさずリルの腹部に拳を一撃入れた。