「すみません……」

いらないことを言ってしまった。

彼は皇帝になりたかったわけじゃない。

きっと今も、自分の中でいろいろな葛藤と戦っているのだろう。

「いや。君が無事でよかった。あの黒い龍を見たのも、俺と晋耕だけだった」

私が帰ってこないことを心配した晋耕が、乾清宮の周りでウロウロしているのを皇帝が発見。事情を聞くと、私を探していたという。

嫌な予感がした皇帝は、あちこち私を探してくれたらしい。そのうち異臭に気づいた晋耕と共にそちらに向かうと、千源廟が燃えていた。

「よく生き延びた。君は運が強いな」

皇帝の手が、私の頭を優しく撫でる。

指先が耳や首に触れるたび、頬が熱くなってしまう。

「なあ、宇俊」

「は、はい」

「徳妃の席が空いたんだ」

「そのようっす、ですね」

どうして宝石を見つめるような目で私を見るのか。そんな甘い声音で私に囁くのか。

わけがわからず視線を外し続ける私の顔を、彼は優しく挟んで自分の方へ向けさせた。