「気づいてよかった。覚えているか? 君は火事に巻き込まれたんだ」

大きな手で私の頬を包む皇帝は、心から安堵したような顔をしていた。

至近距離で覗き込まれ、照れて下を向いてしまう。

「はい。助かったんですね」

思い出してまたぞっとした。

あの屏風に気づかなければ、死ぬところだった。

屏風には先帝が民のために雨乞いの儀式をして見事に雨を降らせたという功績が書かれていたのだ。

普通、御霊を鎮めるお経なんかを書くと思うんだけど、つくづく自分のことが大好きな暴君だったらしい。そのおかげで助かったんだけど。

「誰があんなことを……」

「寧徳妃が自白したよ。自分が宦官を買収してやったんだって」

「えっ!」

寧徳妃といえば、この前の騒ぎで手作り呪符を送り付けたお妃さまだ。趣味は呪い。

「俺がお気に入りの宦官、つまり君だ。君ばかり部屋に呼んで、妃嬪たちのことは放ったらかしだから、消してやろうと思ったそうだ」