乾清宮や妃嬪の殿舎は灯篭で明るく照らされているが、千源廟の周りは夜になると暗い。

手提灯籠を持ち、廟の前で立ち止まる。きょろきょろと周りを見回しても、皇帝の姿はない。

入り口前の階段を上がり、廟の戸を押してみる。夜は鍵がかけられているはずのそこは、力を入れるとゆっくりと開いた。

「主上~?」

中は真っ暗だが、提灯のおかげでなんとか進むことができる。

入り口からまっすぐ進むと、朱の跪拝台にたどり着いた。

灯りで上の方を照らすと、壇上に鎮座する先帝の像が見える。

像は一面龍の刺繍がされた絹で飾られ、左右には蓮の花が生けられている。誰かが毎日変えているのだろう。

はあ、死んで木像になってからも、黄金の屏風を背後に背負っているなんて。ちょっと明るく見えるわ。いいご身分だこと。

それにしても、人の気配がまったくない。

「なんだよ、もう」

皇帝は先に帰ってしまったのか、まだ到着していないのか。それとも、気まぐれで私を呼んではみたけど、なんとなく面倒くさくなって来るのをやめたとか。