「行ってほしいって言うか、それが主上のお務めではないですか」
「わかってる」
「もしや、主上は男色の人なのですか?」
「それはない」
きっぱりと言った皇帝は、小さなため息を落とした。
「まあいい。このままでは妃嬪たちの親や後見人たちも黙ってはいないだろう。そろそろとは俺も思っている」
彼は机から離れ、長い髪をさらりと揺らして私に背を向けた。
「後宮なんていらなかった。そもそも皇帝になりたいと思ったことは一度もないんだがな」
「え……」
呟くような声に耳を疑う。
「俺はそろそろ行くよ。あとは任せた」
振り向きもせず、皇帝は行ってしまった。
どこか寂しそうな後ろ姿は、この世のすべてを手にした至尊の位に座る人物には到底見えなかった。