数日後、蔵で書簡を整理しているところに、太監が頬を上気させてやってきた。

「た、大変だ宇俊」

「どうしたのです?」

「主上からおぬしに参内するよう、命が下った」

私は持っている書簡を落としそうになった。

体温が急激に上がっていくのを感じる。逆に頭は冷たく冴えわたる。

「書のお仕事ですか」

「そのようだ。立札の字を見て気に入られたそうで」

この前書いたばかりのあの立札か。

私は内心ほくそ笑む。

ここ二年の血のにじむような努力が報われたのだ。

書はもともと得意だったが、最近は人の心を掴む書の技を研究していた。開けても暮れても、戸板から床板、木の幹まで書けるところに字を書きまくった。

宦官になってからは自由に練習する時間が少なくなったものの、紙が使えるようになったので逆に鍛錬がはかどった。

「ええっ、あの立札が? いったいどのような御用なのでしょう。緊張しちゃうなあ」

驚くフリで返事をすると、蔵の入り口からプッと吹きだす音が聞こえた。

太監の向こう、蔵の入り口にもたれるように晋耕が立っている。