私を見下ろしていたのは、晋耕だった。彼は仕事で山に来ていた。

『仙女の谷? バカですねえ。そんなものあったとしても、常人がたどり着けるわけないではないですか』

皇太后の命で、珍しい木の実を探しに来たのだという晋耕と話していたら、仙女になるという希望は潰えた。

『仙女に会いたかったのですか?』

『いいえ、仙女になりたかったのです』

『ははあ、ワケアリですね。世を捨てたいと思うワケがおありか』

晋耕は私に饅頭(パン)と干し肉を分けてくれた。

雰囲気や服装から、彼は宦官だろうと察した私は、口を閉ざした。

宦官は後宮に仕える身。私の身分を明かすわけにはいかない。

『そういえば、最近屋敷を焼かれた礼部尚書がいましたね』

彼の視線が自分の裙にあるのを感じ、焼け焦げた部分を咄嗟に隠した。

『娘は焼死体で見つかったようですが、顔の損傷がひどく、本人かどうか定かではないそうです』

『……なぜ私にそんな話を』

『さあ。あ、そうだ。偶然にも私は仙女をひとり知っています。案内してあげましょう』

『えっ、本当ですか』