「私は礼部尚書・白念成(はくねんせい)の娘、白雨春(はくうしゅん)と申します」

「礼部尚書の白だと……⁉」

父の名前を聞いた途端、皇帝の顔が険しくなった。

「ではそなたはあのときの娘か」

「はい。主上にお救いいただきました」

「そうか。無事であったのか……」

だんだんと表情を和らげた彼は、深いため息を吐いた。

「どうして宦官に?」

外に聞こえないよう、顔を近づけて囁くように話す皇帝。

どぎまぎしながら、私は答える。

「行き倒れているところを(てい)少監に助けられました」

「なるほど、丁晋耕か」

「少監を責めないでくださいませ。すべては私の咎でございます。少監は私を哀れに思い、真面目に働くならと、ここに置いてくださっているのです」

三年前、追手から逃げたはいいが、その後どうしていいのかわからなかった私は、仙女がいるという山を目指して歩き続けていた。

仙女になるしかないと思ったが、行けども行けども仙女たちが住まう谷は見えない。

力尽きて倒れた私は、誰かに冷水をぶっかけられて起きた。