どの妃嬪も、実家からの多大な期待を背負って後宮入りしている。

皇位は基本的に皇帝の長子に譲られることが多いため、先に妊娠すれば皇后の位に昇り、子供を皇太子にし、実家の権力を強めることができる。

みんなが必死で皇帝の寵愛を受けようと戦うのが、後宮だ。

「宇俊、それを離せ。おい丁少監、これを道士のところに持っていけ」

「バレていましたか」

皇帝は隠れて様子を見ていた晋耕に気づき、呪符を持たせた。

晋耕は箱の蓋をきっちり閉め、広間から出ていく。

しいんと耳が痛くなるような静寂を破ったのは、皇帝だった。

「徐貴妃、寧徳妃。ふたりには七日間の謹慎を命ずる。写経をして頭を冷やすがよい」

「そんなあ!」

不満げな声を漏らしたのは徐貴妃だ。罪のない女官に怪我をさせたことをなんとも思っていないのか。

それとも、寧徳妃と一緒に謹慎するのが嫌なのか、写経が嫌いなのか。

私は写経、大好きだけどな。