皇帝が手のひらを向けると、徐貴妃は黙って歯を噛みしめた。ギリッと音が聞こえそう。

「では失礼して」

ひらっと呪符をつまんで掲げると、妃嬪たちがそれを見上げる。

「これ、多分朱液じゃなくて血で書かれてると思うんです。でも自分の血をこれだけ出すのは大変じゃないですか。痛いし」

呪符の文字はかなり細い線で書かれている。筆に血を含ませて掠れないように書こうと思えば、小皿かなにかに血を溜めておく必要がある。

「で、調べたらこの中に、毒蛇の生き血を飲む習慣がある方がいるそうで」

「毒蛇の?」

妃嬪たちが青ざめる。

「毒が出るのは牙からなので、さばくときに血を絞れば、それは滋養強壮の薬となります」

「有名な話ね。おいしそうではないけど」

徐貴妃が袖で口元を押さえた。蛇の生き血を想像してしまったのだろう。

「滋養強壮と言えば……」

誰かが口にし、胡修儀に再び視線が集まる。