泣いているように見えるが、肝心の目元は扇で隠れてわからない。
「もちろん、徐貴妃の宮に無断で立ち入り、狼藉を働いたものにはそれなりの処断を下す」
ビリッと広間の空気に稲妻が走ったような気がした。
妃嬪たちの顔に緊張の色が漲る。
「しかし、徐貴妃よ。罪なき女官に傷を負わせたそなたにも、謹慎を申し付ける」
「なんですって!」
皇帝の発言に反応し、一際大きなざわめきが押し寄せる。
徐貴妃は扇を握りしめて怒鳴った。目元の化粧は崩れていない。
「この札を作ったのは、胡修儀ではない。彼女は関係していない」
妃嬪たちの目線が一斉に胡修儀に集中する。
胡修儀は青ざめた顔で、所在なさげに突っ立っていた。
「でも、札に彼女のにおいが」
「それですよ。こういう嫌がらせをするのに、わざわざ自分のにおいが残るようにしますか? 私だったら、行水をしてから作りますね」
最初から違和感があったのだ。
犯人がわざわざ自分の手がかりを残したりするだろうか? と。
「お前は先日の無礼な宦官……!」
「よい、宇俊続けろ」