晋耕と共に女官を胡修儀の宮に送り届けると、女官は涙を流してお礼を言った。

「ご主人様はご気分が優れず……申し訳ありません」

仲間の女官が出てきて、私たちに頭を下げた。

そもそも胡修儀が出てきてお礼を言ってくれるとは思っていなかったので、大丈夫ですと答える。

それにしても、たしかにこの宮に漂う香りは微妙だな。

皇帝を誘ういい香りと言うよりは、厨房の片隅のようなにおいがする。

お礼に、とたくさんの菓子や果物をもらい、自室に戻った。

同じ部屋に寝泊まりしているのは晋耕ともう一人だが、その人は「呪符怖い!」と言って他の部屋に行ってしまった。

私はそっと、箱に巻いた帔帛を取る。

「うわ。それ、大丈夫なんでしょうね?」

戻ってきた晋耕が思い切り嫌そうな顔をした。

「さあ。呪符はまだ見てないんで、なんとも。帔帛はただの演技ですから」

「演技?」

「私が呪いに詳しい人に見えたでしょう。ほら、この文字。咄嗟にお経を書いただけですよ」

晋耕はお経が書かれた帔帛を指でつまんでまじまじと見た。