「呪符はどこに? 私たちで調べます」
そもそも後宮の犯罪を検分するのは宦官の仕事だ。
「あれは大事な証拠よ。渡さないわ」
「それはいけません。呪符というからには、呪力が込められているものです。御身の安全のためにも、即刻お渡しくださいませ」
徐貴妃はぐっと唇を噛んだ。
さすがの彼女も、呪いは怖いらしい。
「仕方ないわね。ちゃんと調べなさいよ。犯人は八つ裂きにしてやるわ」
貴妃に指示された女官が、箱ごと呪符を運んでくる。
「ああ、こんな無防備な。筆と長い布をいただけますか」
「なにするのよ」
「ひとまず呪いを封じるのでございます」
眉間にシワを寄せた徐貴妃は、少し考えて女官に耳打ちする。
やがて女官が筆と帔帛を持ってきた。帔帛はいらなくなったものだろう。
私は遠慮なく帔帛に筆を走らせた。
それを箱にぐるぐると巻き付け、縛り上げる。
「慈悲深い貴妃さまに感謝いたします。なにとぞ心穏やかに。検分の結果をお待ちくださいませ」
私は箱を抱え、女官を立たせた。
どれだけここで土下座させられていたのだろう。
体は冷え切り、足元はおぼつかない。
私は彼女を支え、そこから離れた。
呪符を抱えているせいか、野次馬たちは青い顔で三歩ほど退いて道を開けた。