「胡修儀はまだ主上からの文をいただいていないそうね。だからってわたくしのものを引き裂いていいと思っているの? 主上に対する不敬罪も加わりますからね」

「私はなにも……」

「ええい白々しい! 呪符にお前の主人の香が残っていたわよ! あんな嫌な匂いがするのは胡修儀しかいないわ!」

徐貴妃は重そうな扇を閉じて女官目がけて投げつけた。

扇は女官の額に直撃し、彼女はうずくまる。ぽたぽたと血が流れるのが見えた。

「ちょっちょっちょっちょ!」

「あっ宇俊っ」

あまりに可哀想で見ていられない。

私は止めようとする晋耕の手からすり抜け、回廊から飛び降り、女官の前に立った。

「どきなさい」

徐貴妃の怒りに燃えるような目に見下ろされる。

「いいえ、女官は主上の所有物です。勝手に処断すれば、貴妃さまも罪に問われます」

「宦官ごときがわたくしに盾突く気?」

ぎろりとにらまれる。

幼い頃から他人を支配してきた人の目だ。

だけどこっちはそんなもの、怖くないんだから。