「女が多数集まれば揉めるのは普通のことだ」

「それはそうですが」

「よい。あとで聞く。ひとまず下がれ」

「は、ははっ」

部屋の外にいる人の足音が遠ざかっていく。

「つまらぬことだ」

興が冷めたと言わんばかりに、皇帝は椅子に座り直した。

私の前には書きかけの文が残っている。

「あの……私、代わりに様子を見てきます」

首領太監が報告してくるくらいなので、かわいい揉め事ではないのだろう。

せっかく文で妃嬪のご機嫌を取っても、別のことで揉めたら意味がない。

あの優しそうな皇太后が妃嬪のことを気遣うのは、自分も後宮でつらい思いをしてきたからだろう。

まったく揉めないのはムリだとしても、生死に関わるような大揉めは見過ごせない。そうでなければ放っておくけれども。

「そうか。うむ、そなたがそう言うなら好きにするがよい」

「はっ」

「書きかけのものはどうする」

「あとで完成させておきます」

「よし。行け」

立ち上がり、礼をしてその場から去る。

長い回廊を走っている途中で、ふと自分から皇帝の残り香がしてよろけそうになった。