自慢じゃないけどこの宇俊、宦官になる前も男性に縁がなかったので、家族以外の男性とこんなに近距離で触れ合うのは初めて。

心臓が壊れそうなくらい暴れている。

「で、では、失礼して」

へたに抵抗すれば、それこそ不敬罪になる。

私は覚悟して、筆を動かした。

皇帝の手は微妙な力加減で、私の筆を邪魔することなく包み込み、一緒についてくる。

集中しろ、集中しろ。

ひたすら書くことに集中しようと暗示をかけていると、突然部屋の外から声がした。

「失礼します、主上」

皇帝はパッと手を離した。

「どうした」

彼の体温が離れていく。

ああよかった、助かった。誰か知らないけどありがとう。

「誰も近づくなと言ったはずだ」

「申し訳ありません。首領太監からの言付けを申しつかっております」

立ち上がった彼の横顔が訝しげに歪む。

「妃嬪の間で揉め事が起こっておりますのでご報告をいたせと」

心底申し訳なさそうな声が聞こえてくる。

緊張していた様子の皇帝は、ふっと表情を緩めた。