今日も卓の前に正座し、墨を磨っている。椅子に座った皇帝に見下ろされながら。

「どれ、たまには自分で書いてみようか」

今日は時間に余裕があるのか、皇帝がそんなことを言い出した。

「あ、では私は失礼しましょうか」

「いや、隣にいろ。どう書いたらいいか指南してくれ」

「ええっ。私が主上に指南ですって」

「書はそなたの方が上手だからな。なに、誰も見ていない。気にするな。菓子もやるから」

皇帝の椅子の脇にある卓には、桃の形をした饅頭が置かれている。

饅頭は好きだけど、なんだかなあ。お菓子で言うこときかそうなんて、完全に子供扱いじゃないか。

恐縮する私のすぐ横に、皇帝がどっかりと座った。腕が触れた。

うわあ、いい匂いがする……!

香なのか彼自身から発する気なのか、とにかく嗅いだことのないような匂いが鼻孔をくすぐる。