「そなたのような女性をどこかで見たような気がするのだが……」
動揺した私は、慌ててうつむいた。
「いや、気のせいだろう。では」
今度こそ皇帝は部屋を出ていった。
私はホッと息を吐く。
逆賊の汚名を着せられた父の娘である私が生きているとわかれば、一大事。
いや、そうと気づかれなくても女性だとバレるだけで死刑は免れない。
まだ死ぬわけにはいかない。
私の目的は皇帝に会うことではない。
あの日助けてくれた彼に出会えたことはうれしいけれど、それが目的ではないのだ。
私はぐっと筆を握りしめる。
皇帝が纏った香がまだ、ほのかに室内を漂っていた。