「よし。試しに一枚書いてみろ」

長い指が鈴を鳴らすと、すぐに宦官が飛んできた。

その手には数枚の紙が抱えらえている。

「これが余の筆跡だ。妃の誰も知らぬとは思うが、念のため」

たしかに皇帝の筆跡を見る機会は、よほどの高官以外には訪れない。

わくわくして紙を広げた私は、嘆息した。

顔と同じ流麗な文字で、昔の有名な詩がしたためられている。悪筆だったら面白いのにとか一瞬でも思ってごめんなさい。

「できそうか」

椅子から立ち上がり、近づいてくる皇帝。

「お任せください」

私はその場に跪き、上着の袖が邪魔にならないよう、たすき掛けをした。

宦官が目の前の卓に敷いていった毛氈の上に紙と文鎮を置く。

墨を磨る間に内容を考え、筆に乗せた。

さらさらと紙の上に筆を滑らせる。

やがて出来上がった文を、皇帝が摘み上げた。

「これは見事だ」

彼の表情が驚いたように動いた。