なぜそんなことをいち宦官の私が知っているかというと、後宮には毎朝朝礼があり、皇帝が誰のところに渡ったか、閨の記録役が皇太后の前で報告するのが習慣だから。

みんなの前で誰を愛したか公表する義務があるなんて、皇帝も大変だなあと思う。仕事だから仕方ないけど。

「余は今、政に専念したいのだ」

切れ長の目ににらまれ、私は黙る。なんという迫力。

「妃の機嫌を取っている暇はない。しかし、皇太后が妃嬪に優しくしろとうるさくてな」
彼の顔に微かに苛立ちが見えた。

「まあ」

政に専念しなくてはならないのは本当だろう。

先帝はお世辞にも賢帝とは言えず、女癖と酒癖と金遣いが荒く、乱暴者。絵に描いたような暴君だった。

その先帝が不審な死を遂げ、皇太子の黄紫釉が後を継いだ。

どんな死に方だったのかは、わからない。今でも誰もが口を噤んでいる。ただ不審死だったということだけは、晋耕から聞いた。

それはさておき、先帝が暴君だったため、新帝に対する期待はどうしても高まる。

彼は皇族が失っている信用を取り戻すため、一生懸命政に取り組もうとしているのだろう。