皇后の座を狙う仁義なき戦いが後宮で繰り広げられていると言うが、新人宦官の私はまったく関与していない。

回廊を渡る妃たちの顔をちらっと見たことはあるが、みな優劣つけがたい美人だ。

「当たり障りのない……とは」

「適当な挨拶に、余の好意を匂わせるような文言を加えてくれ」

皇帝の顔はぴくりとも動かない。

代筆には二種類あり、皇帝の言葉を書き写すものと、内容から考えなくてはならないものがある。

今回は後者らしい。これは難題だ。

「妃嬪たちの機嫌がそなたにかかっている。頼むぞ」

じっと見つめられ、不覚にも頬が熱くなる。

ダメダメ、ぽーっとしている場合じゃない。

「お妃さまのためには、主上が平等にお渡りになるのが手っ取り早いのでは」

後宮の妃を愛し、後継者を残すのは皇帝の大事な務めだ。

皇妃を迎えない皇帝は、いまだにどの妃のもとにも渡ったことがないと聞く。

たまに妃を尋ねても、事に及ばずに少し話をして退散してしまうこともあるとか。