「そなたに、仕事を頼みたい」

「なんなりと」

「少し面倒な仕事だ」

皇帝は私を手招きした。

私は会釈し、少し彼に近づく。

「余の筆跡を真似て、文を書いてもらいたい」

気分が高揚する。

皇帝の代筆ができるのは、よほど位の高い官僚のみ。

入宮数か月の私に依頼するとは、いったいどのような文なのか。

美しい彼が自分の額を押さえる。袖口の衣が揺れた。

「このことは内密にしてもらいたいのだが」

「はい、もちろん」

「余の妃たちに、順番に、平等で当たり障りない内容の文を書いてほしいのだ」

「お妃さまたちに」

後宮には百人を超える美人が集められている。その半分以上が女官だが、彼女らも皇帝の所有物とされる。

「安心しろ、九(ひん)まででよい」

一番高位の妃は言わずもがな皇后、その下の妃が四妃と呼ばれる。その下が九人の九嬪。合計十四人の妃嬪に、文を書くと。

あ、違う。皇帝はいまだに皇后を迎えていないんだった。だから十三人か。