天に昇る煙と赤い炎を背にし、私は走る。

「ああっ」

悪路に足を取られ、持っていた道具箱を落としてしまった。

転んだ私はすぐ起き上がり、必死で散らばった箱の中身をかき集める。

「ひとり娘が逃げたぞ!」

「逃がすな! 必ず捕らえろ!」

遠くから男たちの怒号が響き、私は弾かれるように立ち上がった。

片手で箱を持ち、片手で裙の裾をたくし上げて走り出す。

しかし、蹄の音が無情に近づいてきた。蹴られた大地の震動が伝わってくる。

もう終わりだ。

父も母も殺され、住まいは焼かれた。

叔父も弟も、縄で縛られてどこかに連れていかれた。きっと一族丸ごと、この世から抹殺される。

「なにか落ちているぞ!」

すぐ後ろで声がした。

道具のひとつを拾い忘れたのだろう。

竹藪の中、甲冑を着た影が近づいてくる。

拷問を受けて殺されるくらいなら、自分で一思いに……。

立ち止まり、髪にかろうじてぶら下がっていた簪を引き抜いた瞬間、がさりと音がしてひとりの男性が現れた。