十年前。花散里から雪を連れ出し、龍胆は薬売りを始めた。
職業柄、傷の類には詳しい。生計を立てることができた。
雪と親子のように過ごした。
飯を炊き、風呂に入れ、同じ布団で眠る。
雪が徐々に声が出るようになったのが嬉しかった。
飯がうまいとおかわりしたことも嬉しかった。
――人を斬る以外で自分を必要としてくれるちいさなぬくもり。
あたたかい涙を流したのは初めてだった。
だがその日々も、終りが来る。
ある日突然、この男が現れたからだ。
玄関の戸を開けた刹那、龍胆は袈裟斬りに斬られた。
長らく続いたぬるま湯で、すっかり油断していたのかもしれない。男の纏うかすかな殺気に気づいたときには、体から血が吹き出していた。
「やあ。僕の雪をよくもさらってくれたね?」
殺人鬼はそう言って笑う。その場に倒れた龍胆に馬乗りになり、その背を執拗に何度も刺す。
(おれ、は。・・・ひとを殺すわけにはいかない・・・!!)
――お前さん、あと一人でも人を殺せば、鬼になってしまうよ。
坊主の言葉がよぎる。
龍胆は知らなかった。
『殺す』以外に、この男を止める方法を。
・・・やがて、動かなくなった龍胆を死んだと思ったらしい。男は体を起こす。
「――さて。僕の雪はどこかな?」
そういって、揉み手する。
龍胆の中で、なにかが弾けた。
(すまない。――雪)
油断した男の手から、刀を奪い取る。
(俺は、結局、変われなかったよ)
流れるように、なんのためらいもなく。
龍胆は刀を振り下ろした。
職業柄、傷の類には詳しい。生計を立てることができた。
雪と親子のように過ごした。
飯を炊き、風呂に入れ、同じ布団で眠る。
雪が徐々に声が出るようになったのが嬉しかった。
飯がうまいとおかわりしたことも嬉しかった。
――人を斬る以外で自分を必要としてくれるちいさなぬくもり。
あたたかい涙を流したのは初めてだった。
だがその日々も、終りが来る。
ある日突然、この男が現れたからだ。
玄関の戸を開けた刹那、龍胆は袈裟斬りに斬られた。
長らく続いたぬるま湯で、すっかり油断していたのかもしれない。男の纏うかすかな殺気に気づいたときには、体から血が吹き出していた。
「やあ。僕の雪をよくもさらってくれたね?」
殺人鬼はそう言って笑う。その場に倒れた龍胆に馬乗りになり、その背を執拗に何度も刺す。
(おれ、は。・・・ひとを殺すわけにはいかない・・・!!)
――お前さん、あと一人でも人を殺せば、鬼になってしまうよ。
坊主の言葉がよぎる。
龍胆は知らなかった。
『殺す』以外に、この男を止める方法を。
・・・やがて、動かなくなった龍胆を死んだと思ったらしい。男は体を起こす。
「――さて。僕の雪はどこかな?」
そういって、揉み手する。
龍胆の中で、なにかが弾けた。
(すまない。――雪)
油断した男の手から、刀を奪い取る。
(俺は、結局、変われなかったよ)
流れるように、なんのためらいもなく。
龍胆は刀を振り下ろした。