「坊や。買い出しに付き合ってくれ」
龍胆は編笠を目深にかぶりながら言った。外出するときはいつも、正体を気取られぬよう気を使っている。白い髪も青い瞳も目立つからだ。
髪をきっちり束ね、編傘の中にしまい込むと、龍胆は「しかたないですね」と妙に大人ぶる菫の手を引く。
玄関の戸を、閉めた。
街を歩けば、振袖姿の町娘たちが楽しそうに隣を通り過ぎていく。
(そういえば、雪に綺麗な着物を着せてやったことは、なかったな・・・)
あの頃、雪はまだ小さかったし、やんちゃ盛りだった。絹の着物より、洗い替えがきく方が子育ては楽なのだ。
でも、今はもう、大人の女だ。
この穢土中の誰よりも美しく、成長している。
(綺麗になった)
すると、龍胆の心を読んだかのように、菫は言った。
「ゆきお姉ちゃんだったら、もっとあのふりそでをうつくしく着こなすのに、ですか?」
龍胆はむせた。
「きさま、何を言って!?」
「どうせいのかんがえることくらい、おみとおしです」
菫は目を平べったくして嘲笑した。
「あなたはぼくがみてきた人間のなかでも、ずばぬけてめんどうくさいおとこですね。すきなのに突っぱねたり、がまんできずにつなぎとめたり。――ゆきお姉ちゃんはぼくのおよめさんになるので、こうつごうですが」
「誰が君にやるか」
龍胆は苛立ちを抑えて余裕ぶる。動揺したのは気のせいだ。
そのままの勢いで、彼は呉服屋へと向かう。
「やっぱり、めんどうなおとこです」
菫は肩をすくめた。
龍胆は編笠を目深にかぶりながら言った。外出するときはいつも、正体を気取られぬよう気を使っている。白い髪も青い瞳も目立つからだ。
髪をきっちり束ね、編傘の中にしまい込むと、龍胆は「しかたないですね」と妙に大人ぶる菫の手を引く。
玄関の戸を、閉めた。
街を歩けば、振袖姿の町娘たちが楽しそうに隣を通り過ぎていく。
(そういえば、雪に綺麗な着物を着せてやったことは、なかったな・・・)
あの頃、雪はまだ小さかったし、やんちゃ盛りだった。絹の着物より、洗い替えがきく方が子育ては楽なのだ。
でも、今はもう、大人の女だ。
この穢土中の誰よりも美しく、成長している。
(綺麗になった)
すると、龍胆の心を読んだかのように、菫は言った。
「ゆきお姉ちゃんだったら、もっとあのふりそでをうつくしく着こなすのに、ですか?」
龍胆はむせた。
「きさま、何を言って!?」
「どうせいのかんがえることくらい、おみとおしです」
菫は目を平べったくして嘲笑した。
「あなたはぼくがみてきた人間のなかでも、ずばぬけてめんどうくさいおとこですね。すきなのに突っぱねたり、がまんできずにつなぎとめたり。――ゆきお姉ちゃんはぼくのおよめさんになるので、こうつごうですが」
「誰が君にやるか」
龍胆は苛立ちを抑えて余裕ぶる。動揺したのは気のせいだ。
そのままの勢いで、彼は呉服屋へと向かう。
「やっぱり、めんどうなおとこです」
菫は肩をすくめた。