不意に、雪は口を開いた。
「龍胆さまは、あたたかいです」
手が止まる。体は硬直し、動かない。
「・・・・・・なぜ、そう思う?」
かなり間が空いたが、龍胆は絞り出すように言った。
「体の体温の話をしているのではないですよ」
雪はのんびり言う。
龍胆は怪訝な顔で「では、なんだね?」と問うた。背後にいるため、雪の顔は見えない。
「あなたの雰囲気・・・。あなたの足音。そのお声」
「――」
「作ってくださる、あったかいご飯。あったかいお布団。すべてがあなたの温度です」
龍胆は息を呑んだ。
そっと、雪に気取られないように、片手で口を抑える。
「そう、かな・・・?」
「はい」
雪はすこしだけ後ろの男の様子をうかがう。
彼は顔に活を入れていた。いつもより険しい顔は、雪を誤解させる。
(怒られてしまうかな・・・)
きっと、優しい鬼さんは、こう言うのだろう。
『君は、人間の村へ帰れ』と。
花散里以外にも、集落はたくさんある。雪の居場所は、妖かしの側ではないと、きっと突き放すのだ。――でも・・・。
できることなら、ここにいたい。ずっと。

(そう言ってしまえば、あなたはどんな反応をしますか・・・?)

「龍胆さま」
「うん?」
彼は首を傾げる。雪はすこし頬を赤らめ、うつむいて言った。
「あなたにあってから、朝が来るのが楽しみになりました」
「・・・・・・!」
龍胆は目を見開く。
一言、彼は言った。

「そうか」