花散里の子供らの間で、奇妙な怪談話が囁かれている。
村で一番大きな桜の老木のそばに、まるまる家一件が収まるほどの空き地がある。なんでも、そこは誰も手入れしていないにもかかわらず、草一本生えないそうだ。
これだけなら怪談話どころか噂話にもならない。だが話には続きがある。
――時折、その空き地に二階建ての屋敷が出現するというのだ。
そこの屋敷の玄関の戸は少し開いていて、興味をそそられて中に入ってしまえば、二度と生きては戻れない。
・・・・・・『屍食鬼の館』と、呼ばれている。
さくりと土を踏む。ちょうちんの明かりを頼りにこそこそと歩く小さな影。
影の主は、まだ稚い男の子だ。
「ゆ、雪おねえちゃんっ。あいたいよぉ・・・!」
七つを迎えたばかりだろうか。ふわふわの猫毛をちょこんと結い、うるうる揺れる大きなたれ目が愛らしい。
真っ暗な夜道、自分の顔より大きなちょうちんは重く、寒風は骨身にしみる。肩上げされた粗末な綿の着物には隙間という隙間から熱が逃げていき、わらじを履いただけの素足はしもやけがひりひりと痛痒かった。
やがて男の子は、桜の老木が佇む空き地へたどり着いた。桜は咲く気配はなく、葉っぱを風にさらわれた枝々は哀れを誘う。
だが、男の子の視線は桜の隣の建物へ、静かに注がれていた。
「これが――、・・・屍食鬼の館・・・!」
少年――菫(すみれ)は、ぎゅっと小さな拳を握りしめた。
村で一番大きな桜の老木のそばに、まるまる家一件が収まるほどの空き地がある。なんでも、そこは誰も手入れしていないにもかかわらず、草一本生えないそうだ。
これだけなら怪談話どころか噂話にもならない。だが話には続きがある。
――時折、その空き地に二階建ての屋敷が出現するというのだ。
そこの屋敷の玄関の戸は少し開いていて、興味をそそられて中に入ってしまえば、二度と生きては戻れない。
・・・・・・『屍食鬼の館』と、呼ばれている。
さくりと土を踏む。ちょうちんの明かりを頼りにこそこそと歩く小さな影。
影の主は、まだ稚い男の子だ。
「ゆ、雪おねえちゃんっ。あいたいよぉ・・・!」
七つを迎えたばかりだろうか。ふわふわの猫毛をちょこんと結い、うるうる揺れる大きなたれ目が愛らしい。
真っ暗な夜道、自分の顔より大きなちょうちんは重く、寒風は骨身にしみる。肩上げされた粗末な綿の着物には隙間という隙間から熱が逃げていき、わらじを履いただけの素足はしもやけがひりひりと痛痒かった。
やがて男の子は、桜の老木が佇む空き地へたどり着いた。桜は咲く気配はなく、葉っぱを風にさらわれた枝々は哀れを誘う。
だが、男の子の視線は桜の隣の建物へ、静かに注がれていた。
「これが――、・・・屍食鬼の館・・・!」
少年――菫(すみれ)は、ぎゅっと小さな拳を握りしめた。


