玲燕は初めて官吏の姿に変装して後宮を抜け出して以降、度々変装しては天佑の部下として有力貴族達に接触を試みた。ただ、一介の官吏では交わせる会話に限界があり、多くの人と会うことは困難だったのは事実だ。

「ああ、そうだ。これが手っ取り早い。大会の日は玲燕を含めた五人の妃も特別に鑑賞を許す予定だ。臣下達の人間関係を知るよい機会だろう?」
「まあ、それはそうでございますが」

 玲燕はふてくされながらも、前傾にしていた体を起こす。
 天佑の言うとおり、期せずして後宮の妃のひとりから呼び出されて、自然に顔つなぎをすることができた。それに、このような勝負事では普段の人間関係が自ずと現れる。

「それで、蘭妃には何か助言してやったのか?」
「私がその勝負に参戦すると申し上げました」
「は?」

 その回答は天佑にとって予想外だったようだ。
 先ほどまでの涼しい顔が一転して、目を丸くしている。
その反応を見て、玲燕は溜飲が下がるのを感じた。秘密裏に力試し大会などを企画して玲燕を驚かした意趣返しだ。

 玲燕はずいっとお触れの紙を天佑の顔に突きつける。