声がけと共に入室した女官はおやつの載った盆を持っていた。部屋を与えられるほどの高品位になると、昼食以外に一日二回の甘味が運ばれるのだ。

「そこに置いてくれ」

 天佑が机の端を指さす。

「はい」

 しっかりと化粧をした女官は顔を見ることもなく要件のみを言う天佑をうっとりと見つめ、頬を染める。そして、同じ部屋にいる玲燕に視線を移したので、玲燕はにこりと微笑み返した。女官は目をぱちくりと瞬かせると、にこりと笑った。

 女官は皿を言われた場所に置くと、頭を下げて部屋を出る。
 そのタイミングを見計らい、天佑が口を開く。

「玲燕もあのような顔をするのだな」
「あのような顔?」
「にこりと笑っていた」
「私をなんだと思っているのです。笑うことだってあります」
「ふうん。俺には見せない」
「見せる必要がないので」

 玲燕は素っ気なく言い放つ。

「そう言われると、見たくなるな」
「天邪鬼ですか」

 玲燕がじろっと睨むと、天佑はふっと笑って先ほど女官が用意した皿を視線で指す。

「先ほど茘枝を取ってしまったから、代わりにそれは好きなだけ食べるとよい」
「本当ですか?」