オールが終わって、一旦帰ってから、船井先輩の部屋に出向きました。

 わたしが着いた時には、他のみんなは全員揃っていました。部屋に入るなり小笠原先輩に「発表、一番だから」と言われました。独断で決めたそうです。ひどい。

 みんなでテーブルを囲みます。視線が自分に集中しているのが分かって、緊張します。わたしは声が裏返らないよう、ゆっくりと喋り出しました。

「わたしは――」

 わたしが考えた作戦は――

「警察に通報するのが、一番だと思います」

 わたしは、初心を変えないことにしました。

 他が思いつかないということは、これが今のわたしなのです。わたしはこんなわたしがあんまり好きじゃないけど、それはそれ、これはこれ。認めなくてはいけません。

「普通で捻りがなくてつまらないと思います。でもこれが一番わたしらしいんです。だからわたしはこの答えで行きます。すいません」

 わたしは頭を下げました。小笠原がゆるゆると笑います。

「うん。いいと思うよ」 

 褒めてくれた。ひとまず安心しました。そしてふと、暗い顔をしている船井先輩に気づきました。船井先輩はすぐ、その表情の理由を語ってくれました。

「……俺も同じ」

 ――そうでした。船井先輩は常識人なのでした。

「ごめんね、普通でひねりがなくてつまらなくて……」

 落ち込む船井先輩。フォローする人は誰もいません。わたしはおろおろしながら長野先輩に視線を送りました。長野先輩はやれやれと口火を切ります。

「じゃあ、次は私ね」

 胸の上に開いた手を乗せながら、長野先輩が話します。

「私は、会場に被害者の告白を流す作戦を提案します。このサークルにいるとどんな目に会うか、集まった女の子に教えてあげるの。それで悪い噂が広まってくれれば万々歳でしょ」

 なるほど。わたしは頷きました。だけど立ち直った船井先輩が渋い顔をします。

「被害者の告白なんか集められるのか?」
「でっちあげでいいじゃない。私、ボカロ使えるから、それで作るよ」
「名誉棄損になるだろ」
「なるけど、近いことやってるんだから、向こうも公にしたくないでしょ」

 船井先輩がグッと顎を引きました。長野先輩は続けます。

「まあ本当は、単純にパーティーめちゃくちゃにしたいだけなんだけどね。最初に思いついたのは、昔作ったふざけた曲を会場で流すってアイディアだったし」
「昔作ったふざけた曲?」
「そう。『雌豚音頭』って言うんだけど、聞く?」

 念のため、もう一回だけ言っておきますけど、長野先輩はとても可愛らしい女性です。チョコレートのたっぷりかかったクレープをよく食べます。

「安木は、なに考えたの?」

 長野先輩が安木先輩に話を振りました。安木先輩は短く簡潔に答えます。

「花火」

 AのためのBのためのC。みんなが、続きを待って口を閉じます。

「警察に言っても動いてくれるかどうか分からないから、警察が向こうから踏み込んでくれるような状況にすればいいと思う。だからパーティー会場を荒らしたい。そのためには花火かなって。爆弾でもいいけど」

 爆弾。わたしが過激すぎるから却下したアイディアを安木先輩が口にして、思わず呑みました。小笠原が首を横に振ります。

「爆弾はやめよ。怪我人が出るのは良くない」

 予想通りの答え。安木先輩はあっさり「分かった」と引き下がります。わたしがダメだと思ったことをダメだと判断してくれて、なんとなく安心しました。

「で、小笠原はどうなの? どーせあんたのことだから、自分の考えを曲げる気はないんでしょ?」
「うん。まーねー」

 小笠原先輩が、わたしたちの一週間は徒労だったとあっさり認めました。でもいいんです。無駄にはなっていません。少なくともわたしは、そう思います。

 さて、いよいよ小笠原先輩のアイディアです。話の流れ的に、わたしたちはこれを実行することになります。みんなが固唾を呑んで見守る中、小笠原先輩がおもむろに口を開きました。

「俺のアイディアは――」

 小笠原先輩が得意げに自分の考えた案を語ります。とりあえずわたしは、呆然としました。なにそれ。わたしのそんな気持ちを、船井先輩が代弁します。

「はあああああああああ!?」

 船井先輩は声が大きいです。「うるせーぞ!」と隣の部屋の壁が叩かれました。よくここまで我慢してくれたと思います。隣の方、ありがとうございます。