眠っています。

 目の前は真っ暗で、身体はぴくりとも動かない。それが眠っているからだというのが、眠っているはずなのに分かります。不思議な感覚です。そういう夢を見ているのかもしれない。そんなことをうっすらと考えます。

「――」

 誰かと誰かの話し声が聞こえて、全身がふわりと浮きます。どうやら、運ばれているようです。わたしの背中を下から支えている誰かの腕から体温が伝わります。少しずつ五感が戻ってきていて、目覚めが近いのが分かります。あるいはもう目覚めているのかもしれません。

 背中が柔らかいものの上に乗せられました。ベッド。そしてその後にかけられる布団。身体がぽかぽかと温かくなって、意識がまた沈んでいきます。自分と世界の境界線がなくなり、暗くて深い闇の中に自我が溶けていきます。

 頭を撫でられます。

 優しい手つき。大きくて、温かい手。まだうんと小さい頃、お父さんやお母さんに撫でられていた時の気持ちを思い出します。あなたを愛している。あなたは愛されている。だから、安心して。そう言われているような気分になります。

 ありがとう。

 声にならない声でそう伝えます。手がわたしの頭から離れました。顔を見なくても笑っていると分かる穏やかな声が、暗闇の中に響きます。

「バイバイ」