その日はマンションには泊まらず、家に帰りました。
帰ってすぐ、小笠原先輩から連絡が来て話ができました。思っていたよりは元気そうで、本人も「元気だよー」と言っていたのに、どうしても不安が拭い切れませんでした。話が終わってからわたしは船井先輩、長野先輩、安木先輩と連絡を取り、明日の昼にお見舞いに行くことを決めました。俊樹くんに予定を告げるとあちらもお父さんと一緒に病院に出向くということだったので、病院のロビーで待ち合わせをすることにしました。
次の日、わたしたちは予定通り病院に向かいました。小笠原先輩のお父さんと俊樹くんと合流し、受付で貰った面会バッジをセーターの胸につけて病室に向かいます。小笠原先輩の入院している病室は個室でした。いくつかの大部屋を通り過ぎた後にたどりついた個室は悪い意味で特別感があって、気が滅入ってしまいます。
みんなで病室に入ります。白いカーテンがかけられた窓に、三人ほど座れそうなブラウンのソファ。ベッド脇には大きなラックが置いてあり、その天板の上にはテレビらしきモニターが乗っています。そしてシーツで覆われたベッドに横たわっているのは間違いなく、病院服を着た小笠原先輩です。
「やっほー」
小笠原先輩が手を振りました。船井先輩が呆れたように声をかけます。
「何がやっほーなんだよ」
「とりあえず元気なところを見せようかと」
「元気なのか?」
「うん。聞いてないの?」
小笠原先輩がわたしを見ました。わたしは「言いましたよ」と小声で答えます。嘘ではありません。お見舞いの予定を立てた時に確かに伝えました。伝えているわたし自身が信じて切れていないとすぐにわかる、暗く落ち込んだ態度で。
「でもすぐには退院できないんでしょ?」
長野先輩が尋ねます。船井先輩も長野先輩も、わたしが聞きたいけど聞けないことを代わりに聞いてくれている。そう思いました。
「まーね。でもこの感じだとそんな時間かかんないと思うよ」
「先生にそう言われたの?」
「勘」
「あのねえ……」
「自分の身体のことは自分が一番分かるよ。クリスマスまでには退院して、サークルのパーティにも参加するつもり。あ、それと――」
小笠原先輩がまたわたしの方を向きました。わたしは背筋を無理やり伸ばして小笠原先輩と向き合います。
「俺がいない間、サボ太郎の世話を頼んでいい?」
「……いいですよ。そんなにやることないですけど」
「冬場は水やり二週間に一回だっけ。まー、でも、植物も声かけるとよく育つとかいうじゃん。サボ太郎を俺だと思ってたまには会いに行ってやってよ」
無理です。わたしもサボ太郎は好きです。かわいいとも思います。でも小笠原先輩の代わりには、絶対になりません。
退院して、一緒に会いに行けばいいじゃないですか。
本当に大したことないなら、それが出来るはずじゃないですか。
それとも――
「――手間じゃないですよ。サボ太郎の方が小笠原先輩よりいい子ですし」
冗談を返します。小笠原先輩が、顔をくしゃくしゃにして笑いました。
「確かに」
帰ってすぐ、小笠原先輩から連絡が来て話ができました。思っていたよりは元気そうで、本人も「元気だよー」と言っていたのに、どうしても不安が拭い切れませんでした。話が終わってからわたしは船井先輩、長野先輩、安木先輩と連絡を取り、明日の昼にお見舞いに行くことを決めました。俊樹くんに予定を告げるとあちらもお父さんと一緒に病院に出向くということだったので、病院のロビーで待ち合わせをすることにしました。
次の日、わたしたちは予定通り病院に向かいました。小笠原先輩のお父さんと俊樹くんと合流し、受付で貰った面会バッジをセーターの胸につけて病室に向かいます。小笠原先輩の入院している病室は個室でした。いくつかの大部屋を通り過ぎた後にたどりついた個室は悪い意味で特別感があって、気が滅入ってしまいます。
みんなで病室に入ります。白いカーテンがかけられた窓に、三人ほど座れそうなブラウンのソファ。ベッド脇には大きなラックが置いてあり、その天板の上にはテレビらしきモニターが乗っています。そしてシーツで覆われたベッドに横たわっているのは間違いなく、病院服を着た小笠原先輩です。
「やっほー」
小笠原先輩が手を振りました。船井先輩が呆れたように声をかけます。
「何がやっほーなんだよ」
「とりあえず元気なところを見せようかと」
「元気なのか?」
「うん。聞いてないの?」
小笠原先輩がわたしを見ました。わたしは「言いましたよ」と小声で答えます。嘘ではありません。お見舞いの予定を立てた時に確かに伝えました。伝えているわたし自身が信じて切れていないとすぐにわかる、暗く落ち込んだ態度で。
「でもすぐには退院できないんでしょ?」
長野先輩が尋ねます。船井先輩も長野先輩も、わたしが聞きたいけど聞けないことを代わりに聞いてくれている。そう思いました。
「まーね。でもこの感じだとそんな時間かかんないと思うよ」
「先生にそう言われたの?」
「勘」
「あのねえ……」
「自分の身体のことは自分が一番分かるよ。クリスマスまでには退院して、サークルのパーティにも参加するつもり。あ、それと――」
小笠原先輩がまたわたしの方を向きました。わたしは背筋を無理やり伸ばして小笠原先輩と向き合います。
「俺がいない間、サボ太郎の世話を頼んでいい?」
「……いいですよ。そんなにやることないですけど」
「冬場は水やり二週間に一回だっけ。まー、でも、植物も声かけるとよく育つとかいうじゃん。サボ太郎を俺だと思ってたまには会いに行ってやってよ」
無理です。わたしもサボ太郎は好きです。かわいいとも思います。でも小笠原先輩の代わりには、絶対になりません。
退院して、一緒に会いに行けばいいじゃないですか。
本当に大したことないなら、それが出来るはずじゃないですか。
それとも――
「――手間じゃないですよ。サボ太郎の方が小笠原先輩よりいい子ですし」
冗談を返します。小笠原先輩が、顔をくしゃくしゃにして笑いました。
「確かに」