鴨志田さんと別れて、次の目的地に向かいます。

 丹波先生と鴨志田さんは、二人ともわたしの行ったことのない土地に住んでいました。だから電車に乗って向かう先も初めて降りる駅でした。でも次は違います。つい最近降りました。小笠原先輩の家の最寄り駅だからです。

 駅前の喫茶店に入ります。また二人がけのテーブルを集めて六人テーブルを作り、飲み物を頼んで相手を待ちます。わたしはアイスカフェオレを頼みました。船井先輩がストローでアイスコーヒーを飲んでいる俊樹くんに声をかけます。

「なあ。君は本当にここにいていいのか?」

 俊樹くんがストローから口を離しました。そして淡々と質問に答えます。

「ダメでしょうか」
「ダメってことはないけど……」
「なら、同行させて下さい。邪魔はしないようにしますから」

 俊樹くんが再びストローに口をつけました。船井先輩が心配そうにその様子を見つめます。気持ちは分かります。分かりますが、俊樹くんが退くわけありません。今日ついて来たのはこの撮影のため。丹波先生や鴨志田さんはおまけです。

 三つ編みの女の子が、喫茶店に入ってきました。

 女の子がわたしたちを見つけ、ゆっくりと歩いてきます。丸い輪郭の醸し出す幼くてかわいらしい印象が、白ブラウスに赤いスカートというどこかレトロなスタイルによく似合っています。ビデオレターを撮る相手に選んだ三人の中で、この子だけ事前に姿を確認できていません。小笠原先輩の卒業アルバムにいないからです。

 女の子がわたしたちの傍で足を止めました。そしてわたしたちではなく、俊樹くんに声をかけます。

「久しぶり。元気?」
「元気。とりあえず座れば?」

 俊樹くんに促されて、女の子がわたしの隣の椅子に座りました。この子と小笠原先輩が。想像しようとして、想像できなくて、想像を止めます。

 飯村沙也香さん。わたしの一つ下の高校三年生。

 小笠原先輩の、昔の彼女です。