二人目の撮影相手は、小笠原先輩の高校時代の男友達、鴨志田さんです。

 高二の時にクラスメイトとして出会ってからずっとつるんでいて、俊樹くんも話したことはありませんが見かけたことはあるそうです。今回は、小笠原先輩の過去を探っている時に見せてもらったインスタグラムのアカウントを通じて、連絡を取らせて頂きました。

 待ち合わせ場所はファミリーレストラン。早めに入り、先にわたしたちのお昼を済ませます。わたしはオムライスを、長野先輩はたらこスパゲティを、安木先輩は鳥雑炊を食べました。船井先輩と俊樹くんはハンバーグに大盛ライスをつけた上にポテトフライを半分こしており、さすが二人とも身体が大きいだけあるなあと感心してしまいました。

 鴨志田さんは、わたしたちが食後のコーヒーを飲んでいる時に現れました。
ぱっちりした二重に、スラッとしたシルエット。正統派のイケメンです。まずはお互いに自己紹介をします。それから六人がけのボックス席に前と同じ配置を作り、船井先輩が代表として話し始めます。

「では、これから撮影を始めさせていただきます」
「あ、ちょっと」

 鴨志田さんが出鼻をくじきました。そして流れを自分の方に持っていきます。

「敬語は止めない? 肩ひじ張られるとこっちも緊張するからさ」

 船井先輩が口ごもり、横目で隣の長野先輩を見やりました。無言のメッセージを受け取った長野先輩が動きます。

「分かった。じゃあ、雑談っぽくやるね。まずは――」

 さすが、長野先輩。アクシデントに強いです。台本のある仕事をきっちりこなす船井先輩と上手く役割分担ができています。

「――それで、小笠原とはどんな友達だったの?」
「単純に遊び仲間だよ。君たちビリヤードサークルの仲間だよね。あいつにビリヤード教えたの俺だから」
「そうなの?」
「そうなの。だから君たちがオガちゃんと出会えたのは、俺のおかげ」

 鴨志田さんがニッと笑いました。並びのいい白い歯が眩しいです。

「遊びの趣味が合ったから仲良くなった感じ?」
「それもある。でも一番大きいのは、俺もオガちゃんも学校みたいなカッチリした空間が苦手だったからかな。だからよく一緒に授業サボって遊んでた」
「サボっちゃうんだ」
「そう。オガちゃんは小さい頃にお母さんを亡くしてるだろ。あの体験があるから、やりたいことはやりたい時にやるって決めてるんだよ」

 鴨志田さんが俊樹くんを一瞥しました。俊樹くんの肩が小さく上下します。

「誰にだって、天気がいいから学校サボって海に行きたいみたいなことを考える瞬間はある。でも即行動に移せるのは一握りだ。オガちゃんは特に爆速で、俺はついていけなくて『今から?』とか聞くこともあった。そうすると、オガちゃんは『だって明日には死んじゃってるかもしれないじゃん』とか返してくる」

 鴨志田さんの視線が、わずかに横に逸れました。

「結果的にこうなってるんだから、それが正解だったんだろうな」

 こうなっている。みんなが思い出したくないことを思い出し、場の空気が沈みました。長野先輩が仕切り直すように軽く咳払いをします。

「そんなの、結果論じゃないですか」

 刺々しい声が、しんみりとした雰囲気を打ち砕きました。全員の視線が声の主――わたしの隣の俊樹くんに向けられます。

「こうなることが予想できていたわけじゃない。あの時ちゃんと勉強しておけば良かったと思う可能性だってあった。だから今から逆算して、兄貴の行動を正当化はできません。それはただの結果論です」

 俊樹くんが鴨志田さんを見つめます。鴨志田さんは視線を受け止め、ふっと小さく笑いました。

「俺もそう思う」

 余裕たっぷりに言葉を放ち、鴨志田さんが座席に深く身を沈めました。

「俺は結果的に正解だったって言ってるだけだからね。結果論で正解。オガちゃんの人間性を評価してるつもりはないよ」

 鴨志田さんが肩をすくめました。芝居かがった仕草が画になっています。

「ただ個人的な評価でいいなら、俺はオガちゃんの性格は好きだ。君がどんな想いを抱いていてもそれは変わらない」

 はっきりと言い切ります。俊樹くんが鴨志田さんから視線を外しました。テーブルの何も置かれていないスペースを見つめ、呟きをこぼします。

「分かりました」

 話が途切れました。長野先輩が「じゃあ、次の質問だけど」と言って撮影を再開します。それから撮影が終わるまで、俊樹くんは一言も喋らず、ほとんど鴨志田さんの方を向きもしませんでした。