電車が停まり、ドアが開きました。

 むわっとした真夏の熱気に襲われ、わたしは顔をしかめました。汗をかいた感覚があり、白いフリルトップスに染みができないか心配になってきます。とはいえ、今から家に戻って汗染みが目立たない色の服に着替えるわけにもいきません。ホームに降りて改札に向かいます。

 改札を出ると、船井先輩と長野先輩と安木先輩が既に集まっていました。全員トップスは半袖のTシャツ。逆にボトムスは船井先輩が短パン、長野先輩がデニム、安木先輩がチノパンと別れています。わたしもチェック柄のスカートなので被りはありません。長野先輩のシャツにはサイケデリックな猫が描いてあって、ちょっと不思議ちゃんな感じです。

「おはようございます。遅くなってすいません」
「時間ピッタリだろ? 大丈夫だよ」

 船井先輩がフォローを入れてくれました。時間ピッタリ。確かにそうです。でもピッタリなのに、最後の一人はまだ来ていません。

「ねえ。もう一人は本当に来るの?」

 長野先輩に問いかけられ、わたしはおずおずと頷きました。そしてハンドバックからスマホを取り出し、親指をディスプレイの上に走らせます。

「一応、今日の朝も確認しました。……あっ!」

 わたしは声を上げました。長野先輩が横からスマホを覗き込みます。

「どうしたの?」
「待ち合わせ時間、11:00じゃなくて11:10って打っちゃってます」
「じゃあ十分ぐらい遅れて来るのね。まあ、それぐらいなら――」
「あの」

 聞き覚えのある声が、わたしの耳に届きました。

 振り向くと、小笠原先輩の弟さんが立っていました。半袖のワイシャツにグレーのズボン。たぶん、制服です。ワイシャツのボタンは一番上まで留められており、爽やかな黒い短髪と相まって、休日に試合に出かける運動部のように見えます。

「お待たせしてすいません。早く出たつもりだったんですけど……」
「……ねえ、今日の集合時間、何時何分だと思ってた?」
「十一時十分じゃないんですか?」
「十分早いよ?」
「一番年下ですから、遅いぐらいですよ」

 わたしは二番目に年下ですが、十一時ピッタリに来ました。話題を変えます。

「なんで制服なの?」
「今日は兄貴に縁のある人たちを訪問して、結婚式のビデオレターを撮らせて頂くんですよね。だったらフォーマルな服装の方がいいと思って」

 船井先輩が、短パンと生足を隠すように安木先輩の背後に移動しました。長野先輩も弟さんからシャツの猫の絵が見にくくなるように身体を背けます。

「では、初めての方もいるので改めて自己紹介させて下さい」

 弟さんがピッと背を伸ばしました。そして両手を脇に揃え、深く頭を下げます。

「小笠原俊樹。十七歳の高校三年生です。今日はよろしくお願いします」

 みんなが圧倒される中、船井先輩がかろうじて「よろしく」と返事をしました。長野先輩がどこか納得のいってない顔で首をひねります。

「ねえ」

 率直で妥当な疑問が、長野先輩の口から飛び出しました。

「この子、本当にあいつの弟なの?」