船井君の家で祝勝会をしよう、と小笠原先輩が言い出しました。
お酒を買うため、近くのスーパーの駐車場に車を停め、全員で降りました。そしてしばらく歩いた後、小笠原先輩が「あ」と声を上げました。
「財布忘れた。船井君、車のキー貸して」
船井先輩が「はい」とキーを渡しました。小笠原先輩は踵を返し、そしていきなり、わたしの手を取りました。
「一緒に来て」
はいと答える間もなく、小笠原先輩はわたしを車まで連れて行きました。船井先輩たちには気づかれましたが、特に追いかけてはきませんでした。そして小笠原先輩は車まで到着すると、まずは助手席の扉を開けました。
「乗って」
意味が全く分かりません。でも乗りました。すぐに小笠原先輩も運転席に乗り込み、エンジンをかけます。ここまでくれば、さすがに分かります。
「小笠原先輩、あの……」
「シートベルトしてね」
ガン無視です。わたしは言われた通りにシートベルトをしました。小笠原先輩はわたしの予想通り、車を発進させました。スーパーに向かう方に進み、窓を開けて、今まさにスーパーに入ろうとしている船井先輩たちに向かって叫びます。
「船井くーん! これ借りるねー!」
そもそもレンタカーです。船井先輩は信じられないものを見る目つきでこちらを呆然と眺め、やがてわたしたちに走り寄って来ました。
「ふざけんなああああああ!」
船井先輩が自分名義で借りて来た車だけあって必死です。でも小笠原先輩は何の躊躇いもなく車を発進させました。やっぱり、どうしても、常識人ほど小笠原先輩には振り回されます。
スーパーの駐車場を出て、しばらく走ると、運転席と助手席の間の台に置いてあった小笠原先輩のスマホが震えはじめました。小笠原先輩はハンドルを握って前方を見つめたまま、わたしに頼みごとをします。
「それ、電源切っといて」
いいのかな。まあ、いいか。わたしはスマホの電源を切りました。そしてこれだけはどうしてもスルー出来ない質問を小笠原先輩にぶつけます。
「あの……何してるんですか?」
「デート」
車が赤信号で止まりました。目を見開いて固まるわたしの顔を、小笠原先輩が怪訝そうな表情で覗き込みます。
「俺たち、両想いでしょ?」
わたしは、間違いなく人生で一番勢いよく、首を縦に振りました。
「はい!」
歩行者用の信号が赤になります。小笠原先輩は視線を前方に戻し、アクセルを踏み込む準備をします。そして楽しそうに横顔で笑いながら、わたしに話しかけます。
「どこ行きたい?」
「海、行きましょう」
「いいねえ!」
自動車用の信号が青になります。車が発進します。加速して、加速して、このまま来世まで行ってしまうんじゃないか。新しい命を手に入れて、全部真っ白になって、また出会い直せるんじゃないか。そう思えるぐらいの速度で、わたしと小笠原先輩を乗せた車は、しばらく直線の広い道路を走り続けました。
お酒を買うため、近くのスーパーの駐車場に車を停め、全員で降りました。そしてしばらく歩いた後、小笠原先輩が「あ」と声を上げました。
「財布忘れた。船井君、車のキー貸して」
船井先輩が「はい」とキーを渡しました。小笠原先輩は踵を返し、そしていきなり、わたしの手を取りました。
「一緒に来て」
はいと答える間もなく、小笠原先輩はわたしを車まで連れて行きました。船井先輩たちには気づかれましたが、特に追いかけてはきませんでした。そして小笠原先輩は車まで到着すると、まずは助手席の扉を開けました。
「乗って」
意味が全く分かりません。でも乗りました。すぐに小笠原先輩も運転席に乗り込み、エンジンをかけます。ここまでくれば、さすがに分かります。
「小笠原先輩、あの……」
「シートベルトしてね」
ガン無視です。わたしは言われた通りにシートベルトをしました。小笠原先輩はわたしの予想通り、車を発進させました。スーパーに向かう方に進み、窓を開けて、今まさにスーパーに入ろうとしている船井先輩たちに向かって叫びます。
「船井くーん! これ借りるねー!」
そもそもレンタカーです。船井先輩は信じられないものを見る目つきでこちらを呆然と眺め、やがてわたしたちに走り寄って来ました。
「ふざけんなああああああ!」
船井先輩が自分名義で借りて来た車だけあって必死です。でも小笠原先輩は何の躊躇いもなく車を発進させました。やっぱり、どうしても、常識人ほど小笠原先輩には振り回されます。
スーパーの駐車場を出て、しばらく走ると、運転席と助手席の間の台に置いてあった小笠原先輩のスマホが震えはじめました。小笠原先輩はハンドルを握って前方を見つめたまま、わたしに頼みごとをします。
「それ、電源切っといて」
いいのかな。まあ、いいか。わたしはスマホの電源を切りました。そしてこれだけはどうしてもスルー出来ない質問を小笠原先輩にぶつけます。
「あの……何してるんですか?」
「デート」
車が赤信号で止まりました。目を見開いて固まるわたしの顔を、小笠原先輩が怪訝そうな表情で覗き込みます。
「俺たち、両想いでしょ?」
わたしは、間違いなく人生で一番勢いよく、首を縦に振りました。
「はい!」
歩行者用の信号が赤になります。小笠原先輩は視線を前方に戻し、アクセルを踏み込む準備をします。そして楽しそうに横顔で笑いながら、わたしに話しかけます。
「どこ行きたい?」
「海、行きましょう」
「いいねえ!」
自動車用の信号が青になります。車が発進します。加速して、加速して、このまま来世まで行ってしまうんじゃないか。新しい命を手に入れて、全部真っ白になって、また出会い直せるんじゃないか。そう思えるぐらいの速度で、わたしと小笠原先輩を乗せた車は、しばらく直線の広い道路を走り続けました。