「綺世。助けてもらったお礼に、私の夢を喰べて? きっと今なら佐保との幸せな夢が見られる気がするの」

「いいの? どんな幸せな夢も、俺が喰べてしまえばすべて忘れてしまうのに」

「うん。どうせなら綺世に、私の一番大切な夢を喰べてもらいたいから」

「俺もかわいい女の子たちの夢を喰べられるのは嬉しいけど」

やはり無類の女好きというのは伊達ではない。
いつもの綺世らしい言葉に苦笑していると、しかし彼は思い直したように首を振った。

「やっぱりそれはまた今度にするよ」

「えっ、どうして? そういう約束だったのに」

「涼音はずっと大変な思いをしていたでしょう? 今日くらい、何も考えずに安心して眠った方がいい」

本当に、この夢喰いも佐保に負けず劣らず人が良すぎる。
綺世には借りばかりが増えていってしまって、何も恩返しができていないというのに。
そう思い、私にももっと何かをさせてほしいと食い下がると、綺世は人差し指で頭を掻きながら眉尻を下げた。

「それならさ、これからも俺に協力してよ」

「協力って?」

「夢渡りができる人間は少ないんだ。夢のことで困っている人たちを助けるために、これからも涼音の力を貸してほしい」

「うん。そんなことなら、もちろんいいよ」

伸ばされたその手を、迷うことなく取る。
それを見た綺世は満足そうに笑うと、繋いでいない方の手を私の目の上に翳した。

「それじゃあ、今はゆっくりおやすみ」

きっとこれからも、私の人生は綺世によって変えられていくのだろう。
初めはそれがとても不安だったけれど、今の私は彼と見る新しい世界を望んでいた。

昼下がりの柔い日差しが、保健室をいっぱいに満たしていく。
あたたかな光に包まれながら、私は幸せな夢を見るためにもう一度ゆっくりと目を閉じた。