思ったとおり、意識がどんどんと深い夢の世界へ入っていく感覚に大人しく身を委ねる。
するといつしか真っ暗な闇の中にいることに気づいて、私はゆっくりと目を開けた。

「夢の、通い路……」

人の夢と夢とを繋ぐ、無限に広がった路。
この世界のどこかに、佐保がいる。

しかしこの一歩先すらも見えやしない完璧な闇の中、本当に佐保の姿を見つけることなどできるのだろうか。
ともすれば自分自身すら見失ってしまいそうな暗闇に身が竦む思いでいると、ふいにどこからかきらきらと光る蝶が現れた。
私を取り囲むように連なる、光る蝶の群れ。
それはまさしく綺世の別の姿だった。
彼は私が迷ってしまわないように、こうして着いてきてくれるのだろう。

大丈夫。私は一人じゃない。
綺世がそばにいる。
佐保がどこかで待っている。

「佐保っ……!」

彼女に会いたい気持ちが抑えられなくなり、居ても立ってもいられなくなった私は、気づけば真っ暗な空間の中で当てもなく意識を彷徨わせていた。
日中で誰も眠っていないような時間だからか、人の夢の中に入り込むことはない。
しかし、おかげでいくら四方を探し回ってもどこにも何も見つけることはできず、私は途方に暮れてしまっていた。

「佐保っ! どこなの! 返事をして!」

お願い。夢の中でいいから、あなたに会いたい。
どうか、もう一度声を聞かせて。

「佐保っ……!」

そうして、どれほどの時間をかけて探し回っただろう。
佐保のわずかな気配すら感じられず、思わず挫けそうになる心を自分自身で叱咤する。

このまま闇雲に探していてもダメだ。
そう考えた私は思い立ってその場に留まり、意識を集中させてみることにした。
持てるすべての神経を研ぎ澄ませて、掴み取れるすべてを感じようと息を潜める。
すると突然、かすかに遠くの方が蜃気楼のようにぼやけ、何かの形を映し出したような気がした。
真っ白な物影はゆらりと揺らめき、色彩を帯びながらその形を成していく。

《すず》

やがて現れたのは、私が卒業した中学校の制服を着た女子生徒の姿だった。
あれは、まさしく佐保に違いない。

「綺世っ! 佐保がっ! 佐保がいたっ!」

そう叫んだ瞬間だった。
視界がパッと眩いばかりの光に包まれた。
かと思いきや、次の瞬間には真っ白な色に塗りつぶされた広大な空間に投げ出されていたのだった。

「うぅ……」

どこだろう、ここは。
奇妙な恐ろしささえ感じるその空間は、綺世の夢の中に入ったときの景色と似ている。
いったい何が起こってしまったのだろう。
驚きと恐怖で体を縮こませていると、仰向けで横たわっていた視界の真ん中に、私を見下ろす綺世の姿が映った。

「涼音、大丈夫?」

「綺世……ここは……?」

「君の夢の中に連れてきたんだよ」

「私の夢……?」

「うん。そして、あの子が佐保ちゃんなんでしょう?」

「よく頑張ったね」と微笑む綺世の視線の先を向く。
するとそこには呆然と立ち尽くす佐保の姿があった。

「佐保っ、佐保っ……!」

「すず……? 本当にすずなの……?」

「そうだよ! 佐保、ごめんね……本当にごめん……!」