まるで私を責めるみたいに、頭の中で佐保が何度も《すず》と呼ぶ。
この声が私の幻聴だとはとても思えないほど、頻繁に、鮮明に。
それなのに、佐保が私に対して何も思っていないはずがない。

「佐保ちゃんの声が聞こえるって、その話、本当?」

「へ……?」

すると私の話を聞いた綺世は、なぜだか顔色を悪くしながら私に詰め寄った。

「ねぇ、涼音。佐保ちゃんとお互いの夢の中を行き来したことはない?」

「急に何言って――」

「大事なことなんだ。よく考えて思い出して」

唐突に問われて狼狽えたものの、綺世の真剣な眼差しに気圧され、私は冷静になって昔のことを思い返してみた。

「……言われてみれば小さかったころ、佐保と一緒にお昼寝をすると、いつも夢の中で遊びの続きをしていた気がするけど」

そうだ、あれはまだ小学生にもなっていないような子供のころのこと。
大きな公園の滑り台や児童館でのお絵かきなど、幼い体が着いてこないほどにいつも一緒に遊んでいた私たちは、お昼寝をしているあいだもどちらかの夢の中に二人でいた記憶がある。
いつしか一緒に眠ることはなくなって、お互いの夢を行き来することもなくなったけれど、今思えばあれは立派な夢渡りだったのではないだろうか。
思わぬ事実を知って呆然としていると、綺世は顎に指を当て、興味深そうに頷いた。

「夢渡りは古くから、親しい間柄であれば普通の人間でも可能だったって言われてる」

「佐保がいたから、私には夢渡りの能力が身についたっていうこと?」

「そういうことだね。きっと君たちは小さいころから夢を行き来できるくらい、強い絆で結ばれていたんだろう」

まさか私のこの能力に佐保が関わっていただなんて。
辻褄が合わさっていく様子に脈が速くなるのを感じていると、綺世は「落ち着いて聞いて」と言ってから私の両目を覗き込んだ。

「これから先は俺の憶測だけど、佐保ちゃんは涼音と同じ能力を持っていた可能性があると思う」

「佐保も!?」

「うん。それに半年前、佐保ちゃんがストレスを抱えていたことは事実だ。そのせいで不眠に陥り、彼女も涼音と同じように不特定多数の人の夢渡りをしていたとする。そして彼女の肉体が死んだときも、意識だけが夢の世界に入り込んでいたとしたら――」

綺世の静かな声をすべて理解するために、固唾を飲んで耳を澄ます。

「――彼女は今、夢の世界で彷徨いながら、涼音に助けを求めているのかもしれない」