周りにいる子たちを励ましていたのは、勝手に夢を見てしまった罪滅ぼしだった。
佐保なら誰かが苦しんでいるのを知ればそうすると思ってやったことだし、私が勝手に夢渡りをしていたことが知られれば、誰も私の死を悼むことなどしないだろう。
おそらく、この目の前の夢喰い少年以外は。
しかし私がそう言っても、綺世は頑として自分の主張を曲げなかった。

「どんな理由であったとしても、涼音の近くにいた人間が君に救われてきたことは間違いない。俺だってそうだよ」

「綺世が……?」

「うん。実はね、夢喰いという正体を人間に明かしたのは、涼音が初めてなんだ」

思わぬ事実を知り、私は何度もまばたきをした。
私の驚きを知ってか知らでか、綺世は淡々と話を続ける。

「夢喰いなんて勝手に人の夢を覗いて貪る、因果な存在だよ。だからずっと隠して生きてきたし、これからだって誰にも知られたくないと思ってた」

「だったら、どうして私なんかに教えたの」

「ははっ。あのね、涼音はときどき失礼なくらいに素直で正直だから、君のことなら信じられると思ったんだ」

「なに、それ」

「つまるところ俺はずっと、大好きな人間に夢喰いである自分を受け入れてもらいたかったんだろうね」

あんなにも軽く打ち明けられた話が、綺世にとってそれほどまでに重要なことだったなんて。
まるで夢みたいに美しく、彼が私に向かって微笑む。

「だから涼音が俺のことを怖くないって言ってくれたとき、すごく嬉しかったんだ。それだけで、夢喰いである自分を許せる気がした」

「そんな些細なことで」

「自分では些細だと思ったことが、案外他人の人生を変えているのかもしれないよ」

「俺は涼音に人生を変えてもらった」と、綺世が私を抱きしめる腕に力を込める。
しかしそんな優しさに絆されまいと、私は彼の胸を強く押し返した。

「佐保はきっと、助けてくれなかった私を恨んでる。だから最後、当てつけにあんなメッセージを送ったんだ」

佐保が私を恨んでいるというなら、私はいくら他の誰かを悲しませたとしても、佐保の元へ行く。
それが彼女にできる、私の最大の報いならば。

「涼音は本当にそう思ってるの?」

「えっ……?」

しかしそんな私の思いを、綺世は力強い声で一刀両断した。

「君の親友はそんな子だった? 君を恨み、君を苦しめ、君の死を望むような、そんな子だったの?」

「ちっ、違……!」

「だったら最後にくれたメッセージも、彼女の本心だったんじゃないの」

視界が一気にぼやけ、瞼が熱くなる。

本当は私だってとっくに分かっていた。
佐保は大人しいけれど、人の痛みに敏感で、自分より他人の気持ちを優先してしまうような、そんな子で。
いくら自分が弱っていても私の変化に気づいて心配してくれる、そんな底なしに優しい彼女が私を呪うなんてこと、地球がひっくり返ったとしても起こりえないのに。

「優しいと言った親友の最後の思いを履き違えるのは、彼女にとっても失礼なことなんじゃないのかな」

「でも……でも、今でも聞こえるの。佐保が私の名前を呼ぶ声が!」