次の日の朝。
教室へ入ると、綺世が怖い顔で私を待ち構えていた。
あと10分もすれば朝礼が始まるというのに、彼は有無を言わせずに私の腕を掴んで廊下へ出ると、そのまま屋上に続く階段を上っていく。
いつもなら流れる水のように出てくる言葉もなく、その無言の空気が居た堪れない。
半ば引きずられるような状態で階段を上りきると、綺世は振り返って私に詰め寄った。

「どうして昨日の夜、俺のところに来なかったの」

綺世の不思議な色の目が、今まで見たこともないほどの真剣さで私を問いただす。
その眼差しの強さに、思わずひゅっと息が詰まった。
そう。綺世の言うとおり、私は昨日の夜、彼の夢の中へは行かなかったのだ。

「……別に。ただ上手くいかなかったの」

「そんな嘘に騙されると思う? 昨日、涼音は途中から様子がおかしかった。いったい何があったの?」

「言いたくない。綺世ももう、私なんかに構わなくていいよ」

ここまで親切にしてもらったのに勝手なことを言ってしまっているというのは、自分でもよく分かっていた。
けれどいくら綺世であっても、これ以上のことにはどうしても触れてほしくなかったのだ。
その心情を察して引き下がってはくれないかと思うけれど、人間をこよなく愛する彼が私を見離すはずがない。
振り払って教室へ戻ろうとするも、すかさずもう一度腕を掴まれてしまう。

「ねぇ、涼音。今がどういう状況なのか、ちゃんと分かってるの?」

「分かってるよ」

「このままだと本当に死んでしまうんだよ?」

痛切な表情で、綺世が脅しの言葉を吐く。
しかし少し前までの私にならば効いたかもしれないそんな言葉も、死に焦がれている今の私には通用しなかった。

「……いいの、それでも」

「何言って――」

「夢渡りも不眠症も治らなくたっていい! そもそも私は死んだって構わなかったんだから!」

そうだ。むしろこのまま死んでしまえるというのならば本望ではないか。
たとえ永遠に夢の中をさまようのだとしても、それは私に科された罰だと思えばいい。
初めから抗うことなんてなかったんだ。

掴まれた腕を振り解きたくて必死にもがく。
しかし私がもがけばもがくほど、なおさら握られる手に力を入れられてしまい、私は理不尽な怒りを抑えられなくなった。

「いいから放っておいてよ! 綺世には関係ない!」

「関係ないわけない!」

綺世がそばにある壁をどんと殴りつける。
自分の喚きよりも大きな声で返され、私は思わず声を失った。

「助けられる人間をみすみす放っておくわけがない! 涼音が死んだら俺は悲しい! 死んでもいいだなんて言わないでよ!」

いつも余裕のある笑みを絶やさない綺世が、必死な顔で私の目の前に迫る。
この夢喰いはどこまで人がいいのだろう。
世の中には救わなくてもいい人間がいるということを、優しい彼はきっと分からないのだ。

「綺世は何も知らないからそんなことが言えるんだよ……」

「それなら教えてよ。涼音が不眠症になった半年前に、いったい何があったのか」

綺世の眼差しに、心臓がどくりと嫌な音を立てる。
体が震えて、冷や汗も滲む。
ここまで来たらもう、隠し通すことなんてできないだろう。
醜い自分をすべて曝け出すために、私は固く拳を握った。

すべてが終わって、始まった、あの日。

「……私は、親友を殺したの」