夢喰い少年と眠れない私

「はい、どうぞ」

突然目の前に現れた、深い赤紫色をしたカシスのジェラート。
それを見て、半年前の記憶が思い起こされる。

《すず》

声が聞こえた。
半年前のあの日まで、何度も私を呼んでくれた心地いい澄んだ声。
その声が、私を責めるように頭の中にこだまする。

《すず》

胸がどくりと嫌な音を立てた。
声の主に引きずられるようにして心の底の後悔と罪悪感が蘇り、私の意識を混濁させる。

ごめん、ごめん、本当にごめんなさい。
謝って済むようなことではないと分かっている。
それでも私には謝ることしかできない。


ねえ、佐保(さほ)
まだ私の近くにいるの?
それならどうかお願い。
私もあなたの元へ連れていって。


「はっ……はぁ、はぁ……」

しかしそんな私の願いは虚しくも届かなかったらしい。
ハッと気づいたとき、私は保健室のベッドの上へと戻ってきてしまっていた。

「驚いた、急に目が覚めたみたいだね」

夢から覚めて呆然としていると、隣で私の手を握っていた綺世もむくりと起き上がった。
荒くなった呼吸が彼に気づかれないように息を殺し、目を合わせずに俯く。

「ごめん、なんだか疲れちゃったみたい。今日はもう帰らせてもらってもいい?」

「そうだね。1日でこれだけできれば十分だ。夜もちゃんと俺の元に来るんだよ」

綺世の言葉に形ばかりの頷きを返し、私は振り切るようにして足早に保健室を去った。
そのあいだも、頭の中には私を呼ぶ声が止むことなく響く。

《すず》

《ありがとう。ごめんね。大好きだよ》

嘘つき。
私のこと、恨んでいるくせに。